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161.一応、お味噌汁
授業が終わって、急いでマンションに戻ってきた。
十九時からってことは……そんなマニアックな会議、長引くに決まってる。……多分、終わってもそのまま宴会突入で、帰れない気がするんだよな……。
替えの洋服と下着、歯磨きとか身の回りのものだけで良さそう。まあ泊まることになっても、一泊だし。
明日そのまま学校に行くかもしれないから、明日の学校の用意もしておいた。
「よし。これでいいか……」
少し大きめのリュックに必要なものを入れて、チャックを閉めた。
時計を見ると、あと四十分くらいで下に教授たちが迎えに来る。急いだから時間、結構余ったな。
スマホを充電器に差しながら、画面を見る。
瑛士さんには、父からの返信の内容と、今日泊りになったことを連絡しておいたけど、まだ既読もついていない。
……そうなんだよね。瑛士さんは忙しい人なんだよね。
だって、見合いとか断るのが面倒で、契約結婚とか考えたくらい、やりたいことがあるって言ってたし。――いつも、側にいてくれるから、暇なのかなと勘違いしてしまいそうだけど。絶対、そんなことはないのだと思う。
むしろ、瑛士さんを見てるより、楠さんを見てる方が、忙しさは伝わってくる。楠さんが焦ってて、瑛士さんはふわふわしてて、でも、少しだけ、やば、みたいな顔してたりする。
ふふ。
――なんでだか、そんなのを思い出すだけで、口元がほころんでしまう。
……ご飯作る時間はないもんね。ホットミルクも作りおきは出来ないし。そこだけちょっと残念。
お味噌汁くらいなら作れるけど。
でもきっと、オレがいないから、こっちには来ないだろうし、ご飯も食べてくるだろうし。そんなところにお味噌汁だけ置いといてもな。
そう思ったんだけど、まだ時間あるし。
――食べなかったらそれでいいや。
水と昆布を火にかけて、その間に大根と人参とごぼうを切る。沸騰したら鰹節を入れておいて、その間にごま油で豚肉を炒める。それから根菜類全部入れて、軽く炒める。
かつお節をこして、だし汁を鍋に入れて、全部煮る。
その間に油揚げとネギを切っておく。大きくてふわふわしてる油揚げが好きって、瑛士さんが言ってるから、大きめに。
――いつも、おいしいって言ってくれる顔が、浮かぶと、また口元が緩む。味噌をといて、油揚げとネギを入れて少し煮て火を止めた。
時間の許す限り少し冷ましてから、ホーローの容器に入れた。蓋を外したまま少し冷やす。
鞄からメモ用紙を取り出して、カウンターのところに置く。
もし、瑛士さんがこっちに来たら、食べてくれるかな。
「瑛士さんへ
もし小腹が空いてたらお味噌汁、食べてください。
出来たら鍋にうつして、弱火~中火でゆっくり温めてください。
ごま油を数滴とか、七味を入れてもおいしいです。凛太」
書いてみて、なんだかちょっと味気ない。
ふと思いついて、「凛太」の文字の横に、イラストを描いてみる。
……んん? なんだかよく分かんない絵になったかも。
書かないほうが良かったかも……?
ま、まあいいや。
そのメモをテーブルの上に置いて、お味噌汁は時間ギリギリで冷蔵庫に入れた。
こっちに来たら、食べてくれたらいいけど。
まあ、明日帰ってから食べてもいいもんね。
とりあえず、作り終えたことに満足して、
オレはスマホと充電器を持った。
その瞬間、急に手のなかで震え出す。
瑛士さんだった。
「もしも」
『あ、凛太? ごめん、ちょっと今日は大事な会議で、スマホ見れなくて、今見た』
なんだかすごく焦ってる声がする。
「あ、大丈夫ですよ、すみません、そういうことなので、今日はご飯つくれないし、ホットミルクも」
『それはしょうがないから。そうじゃなくて、教授たちと一緒って』
「……あ、はい」
『夜も一緒なの?』
「え。……夜?」
『同じ部屋じゃないよね?』
「あ、ないですよ、前も一緒だったことあるけど、βの時でも別々だったくらいなので」
そう言うと、瑛士さんの勢いがちょっと止まって、「そっか……」と呟く。
「まだ泊りになるかも分かんないんですけど。帰ってこれるかもしれないですし。ただ、遅いと思うので……」
『――うん、そっか……』
なんだか瑛士さん、呟くように言って、それから沈黙。
「?」
思わず、繋がってるか不思議になって、ディスプレイを見てしまう。
通話の秒数は進んでく。繋がってるよな。
「瑛士さん?」
瑛士さんは、大丈夫か? と聞いた竜の顔が、なんとなく浮かぶ。
(2026/4/16)
凛太が手紙に書いた絵は何でしょう♡
……皆さんには分かっちゃうかもですね笑。
答え合わせをお楽しみに💖
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