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162.わがままって。

「でもオレ、フェロモンとか大丈夫ですよ。教授たちもずっといても、オレがオメガなんて思いもしてなかったですし」 『うん、そうだけどね……』  なんだか歯切れの悪い瑛士さんに、言葉を待ちながら時計を見ると、教授たちが来ると言ってた時間。  とりあえず、下には行っとかないと。 「あ、瑛士さん、ごめんなさい、時間なのでオレ、とりあえず部屋、出ますね」 『うん。電話してて平気?』 「あ、はい。あの、瑛士さん、何か気になりますか……?」  靴を履きながらそう言って、鞄を持って玄関を出る。  エレベーターに向かって歩きながら、瑛士さんの返事を待っていると。  少しして、瑛士さんが苦笑する雰囲気。 『ごめん、凛太……別に、教授たちと変なことになるとか、思ってないし。……凛太のフェロモン、京也さんとか拓真とかには分かってなかったのもちゃんと分かってるからさ、そこらへんは凛太の言うことも分かるんだけど』 「……はい」  エレベーターのボタンを押して、瑛士さんの声に耳を傾ける。   『そういうのおいといて――離れるの嫌だし、他のαのそばで過ごすとか、嫌みたい』  数秒、オレは沈黙。  いつの間にかエレベーターが来ていて、扉が開いていた。  ……あ。  気付いて、急いで乗り込む。  ――瑛士さん。……今。なんか……結構びっくりすること、言ったかも。 『すげーわがまま言ってるよね……』  優しい声で、でも困ったように、瑛士さんが言う。  ――わがまま……って。なんか、瑛士さんが言うと、可愛い。  ていうか、それがわがままでも、嬉しいし。 『なんだろ、これ。――嫉妬……っていうのか? 執着、しすぎだよね、凛太に……なんか、ちょっと自分に呆れてるかも』  なんだか苦笑してるっぽい、柔らかい笑い声が、耳を掠める。  ――優しい、声と笑い方。目の前に、いるみたい。  なんだか、耳元で囁かれてるみたいな気がして――ぞく、と背中に妙な感覚。 「……っ……あの。瑛士さん」 『ん?』 「――あの。今日は帰れてもすごく遅いので、瑛士さんのところにはいかないです。あと、もし今日が泊りになったら、とにかく、どっちにしても……」  ほんとは、今日もこんなだし、いろいろしたいこと、あるんだけど。  明日だけは。 「明日の学校が終わったら、すぐ帰って、ご飯つくって、待っててもいいですか?」  少しの沈黙。  その後で、今度は、苦笑じゃなくて――嬉しそうに笑う声。 『もちろん。ありがと、凛太』  見えてないのは分かってるけど、つい、うんうん頷いてしまう。  エレベーターを降りてマンションから出ると、ちょうど教授の車がマンションの前に入ってきたところだった。 「瑛士さん、教授たち、来ちゃったので、行きますね」 『うん。――気を付けて。どうなるか決まったら、連絡してね』 「はい」 『あと、もし泊まるなら、泊るところ分かったら入れといて。どこにいるのか知りたいし』 「はい、分かりました。瑛士さん、今日は遅いんですか?」 『ちょっと忙しいから――明日早く帰るためにも仕事しとくけど、電話は出られるようにしておくから』  そんな言葉に、やっぱりどうしたって、嬉しい。  遅いなら、みそ汁のことは、言わなくていいや。明日、一緒に食べよ。 「――分かりました! じゃあまた」 『うん。いってらっしゃい、凛太』 「はい。いってきます」  いってらっしゃいって言ってもらえること。  いってきますって、言えること。  なんだか――感動しちゃうくらい。  嬉しいなと思いながら、電話を切って、教授たちの車に駆け寄った。  助手席の窓が開いて「後ろ乗って」と内海教授の声。 「婚約者にはちゃんと言ったか?」  後部座席に乗り込んで、シートベルトを締めていると、振り返った教授がニヤリと笑う。 「あ、はい」 「かなり執着強そうだからなー」 「……そう、ですか?」 「まあぱっと見は、優男だけどな?」  はっはっ、と楽しそうに笑いながら、「出すぞ」と言うので、「よろしくお願いします」と返すと。 「でも、ほんとに何か言われなかった?」  助手席の佐川教授まで聞いてくる。 「……泊まるなら場所教えてって言ってましたけど。瑛士さんも、お仕事、忙しいらしいですし」 「ふうん、そっか~」  クスクス笑う佐川教授と、おかしそうに笑う内海教授。 「泊まって行っていいって言ってたか? もしやばそうなら、早めに帰ろうかって今、佐川と言ってたんだよな」 「……いえ、そこまで大変な感じは無かったですよ……??」 「……凛太、鈍そうだよなぁ……」  ぷ、と笑われて、「え」と聞き返すと、「またそういうこと、言わないでください」と、佐川教授がたしなめてる。

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