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166.しみじみと

 時計を見ると、すでに三時間くらい経過していた。  発表が終わると、食事も運ばれてきて、完全に自由な歓談タイムになってる。  お酒も入って無礼講。  ほとんどは教授クラスなので、オレが特に話せることはないし、話しかけられることもほぼ無い。教授たちの隣で、空気のように。ちょっと摘まみつつ、飲みつつ、何となく話を聞きながら過ごしている。  でも、いろんな話が聞けるから、全然退屈はしてない。  というか、話しかけられたら、相手するのも大変なので、空気で居られる方が、こういう時はありがたい。 「凛太くんさ」  こそ、と佐川教授が話しかけてくる。少し近づいて耳を寄せると。 「適当なところで、部屋に行ってもいいよ。そんな面白くないでしょ」 「あ、いえ。色々聞けて楽しいです」 「ん、まあそれならいいけど。でも、休みたくなったら行って良いから。これ、部屋のカードキーね」 「ありがとうございます」  部屋番号を見ながら受け取る。 「とりあえず、戻る時は部屋まで送るから」 「大丈夫ですよ?」 「いや、送る。どこかで部屋に連れ込まれても困るし」  ――前はそんなこと言われなかったことを考えると。やっぱり、Ωって打ち明けた影響かなーとは思う。 「すみません。ありがとうございます」  お礼を言うと、教授は、ん、と頷いて微笑む。  もう少しで飲み終えるワインを、一口飲んだ。  ――瑛士さん、そろそろお仕事終わるかなぁ。  できたら、声、聞きたいけど、どうだろ。タイミング、合うかな。お酒も飲んだせいか、ちょっと眠い気もする。あんまり遅いと、寝ちゃうかも……。  そう思った瞬間。  ポケットの中のスマホが揺れた。  ――瑛士さんだった。 「教授、ちょっと、電話してきます。中庭のとこで」  頷いてくれるのを見てからそこを離れて、中庭に出る。 「もしもし」 『あ、凛太? いま大丈夫?』 「はい。もう歓談タイムなので――お仕事、終わったんですか?」 『うん。あの後さ、弁当を食べていざ続きってなった時、リーダーが具合悪くなっちゃってね』 「わー、大変でしたね。熱とかですか?」 『気持ち悪くなっちゃっみたいで、今日は解散ってことになってさ』 「――じゃあ瑛士さん、今日は少しゆっくり休めそうですね」 『うん、そう。そう思って、マンションに早めに帰ったんだ』  そっか。じゃあ、オレももう少ししたら、部屋に行って、瑛士さんとお話してから寝ようかな。  なんて思った。 「瑛士さん、一旦電話切って、部屋に着いたらまた電話しますね」 『あ、ちょっと待って、凛太』 「はい?」 『ちょっと聞いて』 「はい」  教授たちのところに向かって歩きだしていたオレは、足を止めて、瑛士さんの言葉を待つ。 『――オレさ。シャワー浴びて、もう休もうかなと思ったんだよ。凛太も居ないしさ』 「……はい」 『でも――少し寂しくて、凛太の部屋のベッドで寝ようと思って』  あ。もしかして……。  そわ、と気持ちが動く。 『手紙、見たよ』  そう言って、くすくす笑う、瑛士さん。  ――見てくれたんだ。見られなくってもいいって思ってたけど、でも見てくれたって聞くと嬉しくなるって。……やっぱり見てほしかったし、食べてほしかった、ってことなのかな。   『名前の横に書いてあったのって、ペンギンだよね?』 「あ。はい。分かってくれてよかったです。うまく描けなかったので」 『上手だったよ。可愛かったし。写真撮っちゃった』 「……え。写真に残しちゃったんですか?」  それは。……どうだろう。えーと。  ……ちょっと恥ずかしいかも。 『だって可愛いし――ちなみに手紙は、ちゃんと手帳に入れたから、いつも一緒にいるからね』 「……一緒に、ですか。ふふ」  なんだかおかしくて、くすくす笑ってしまう。 『それから、ちゃんと温めて、食べたよ――おいしかった、本当に』 「それは――良かったです」 『――作ったよって、言ってくれたらいいのに』  ちょっと恨めし気な声。 「あ、でも瑛士さん、遅くなるかもですし。無理に食べてもらうのもって思ったので」 『オレが凛太の部屋に行かなかったら、気付かないじゃん。もったいないでしょ』 「もったいない……えーと……もし気づかなかったら、明日、一緒に食べようと思ってたので、もったいなくはないですよ??」 『違うって』  くす、と笑う、優しい声。 『忙しい時に、オレの為に作ってくれてたのにさ。それを知らないのは、もったいないでしょ?』 「――……」  ……ああ、なんか。  ……瑛士さん、大好きだなぁと。  しみじみ、思う。

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