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168.瑛士さんみたいな人が。
「でも教授、あの」
「ん?」
内海教授が、斜めにオレを見下ろす。
「……瑛士さんみたいな人が、オレに……その、執着するって……」
執着って。
……正直なんだろう。
執着って……αの話になると、Ωへの執着がすごいとか。まあ聞くことはあるんだよね……。
自分のΩを、誰にも見せたくないとか。
性質的にΩを囲いたいっていうのがもともとあるというか。
だから愛人を囲うαも多いとか……?
SNSの相談とかにも、執着ってワードは出てくるけど、あれって、どっちかというと、嬉しいよりは、困るって方が多い気がする。
教授たちの言い方だって、「大変だな」みたいなニュアンスが入ってる気がするし。なんかそういえば、竜にも「あんまり執着されないように」とか言われて記憶がある。そうだ、今日安達にも言われたっけ。
皆の共通認識が、「強いランクのαは執着が強い』なんだよね。まあ、なんとなく、分かるような気もするけど。
でも、そもそも執着って何。囲いたいとかは分かるけど、囲わない場合の執着っていうのは、どういう感じ……?
よく分かんないけど、よくよく考えると、αの執着ってワードは、あんまり良いイメージがないかもしれない。
というか、そもそも。
――あの、瑛士さんが、この、オレに。
しゅうちゃく……???
そこまで考えた時、夕方の電話を思い出した。
『離れるの嫌だし、他のαのそばで過ごすとか、嫌みたい』『なんだろ、これ。――嫉妬……っていうのか? 執着、しすぎだよね、凛太に……なんか、ちょっと自分に呆れてるかも』
は。嫉妬ってこと?? ……かと思ったけど、瑛士さんも、「嫉妬っていうのかな?」って疑問だったし。
瑛士さんは優しいんだよな。困るような要素は全然ないし。
うーん。全然分かんないかもしれない。
「執着されてないと、思ってるのか?」
「皆に執着がって言われてる気もするんですけど、でもちょっとよく分かんなくて……」
そう言いながら、うーん、と考えていると、受付の瑛士さんが、くる、とオレを振り返った。視界にずっと瑛士さんの姿はあったので、すぐ気づいて視線を合わせると、にこ、と口角を上げて、そのまままた受付の方を向いた。
……ふふ。なんか、可愛い。笑顔。
そっか、瑛士さんの笑顔と、執着ってワードが、あんまり結びつかないんだな。なんかほのぼのしてる。
「少しでも目に映しときたい、て感じかよ……」
「……?」
「――なんでもない」
く、と笑いながら、内海教授が笑う。
「凛太は――フェロモンを感じにくいから、分からないのかもな」
「……どういうことですか?」
「自分にまとわりつくみたいな、αのフェロモン、みたいなやつ、分かんないだろ?」
「――そう、ですね……まとわりつく、を感じるのは難しいかもですけど……」
そう答えると、ふ、と教授が笑う。
「まあ、凛太な、よく考えろよ。――明日の朝帰るって言ってんのに、こんなとこ来てるαだぞ。あれが、心配なのか、なんなのかは知らねぇけど、一晩すら、一人にしたくないっていう、それが執着じゃなくて、何だと思うんだよ?」
「――」
……ああ。えーと……確かに……?
と思った瞬間。後ろから、軽やかな声が聞こえた。
「――執着されちゃってるの?」
びくう!!っと震えて振り返る。心臓ドキドキしつつ確認すると、さっき会ったΩの彼だった。
内海教授は全然、びっくりした様子もなく、急に後ろからきた彼を、じっと見てる。
ああ、教授、なんだこいつ、的な気持ちがめっちゃくちゃ顔に出てますよう……!
「あ、いえ、あの……そんなこともないんですけど」
なんとなく、執着されてます、なんていうのは憚られて、そう返した。
「番がいるの? ――あの人?」
瑛士さんの後ろ姿を見て、彼はくすくす笑ってる。
そう聞かれて、「いえ、まだ番じゃなくて……」と言った時。
受付から、瑛士さんと佐川教授が戻って来た。
「お待たせ」
楽しそうな声で瑛士さんが言って、オレを見つめて――なんだかものすごく、嬉しそうに微笑む。なんだか。眼鏡の瑛士さんの破壊力が強すぎて、ぐっと言葉も息も呑みこんでしまう。
返事をできないでいるオレを見て、内海教授がくっと笑いを零した。
「なんで笑ってるんですか?」
佐川教授がそう聞くと、内海教授は「いや……」と首を振った。
「もう、凛太を連れていっても平気ですか?」
「もともとそろそろ休んでいいよって言ってたところだからね」
佐川教授の言葉に、瑛士さんがまた、ふ、と瞳を緩めて、嬉しそうにオレを見つめてくる。
「凛太くん、ていうんだね」
Ωの彼がオレを見て、ふふ、と微笑む。
「あ、はい。三上 凛太です」
「――|秋岡 千景《あきおか ちかげ》だよ。千の景色って書くんだ。よろしくね、凛太くん」
「千景さん、ですか。素敵な名前ですね」
「ふふ――ありがと」
手を出されてしまったので、慌ててオレも手を差し出す。
すごく華奢な感じのする細い指と、手を繋ぐ。
わ、細い――。
近くで見ると、余計に綺麗な人だな、と思うと、ぱっぱっと教授たちとも握手して――それから、千景さんが不意に、瑛士さんにも、手を差し出した。
「オレは関係者じゃないんだけど」
瑛士さんは苦笑しながら、肩を竦めさせる。
すると、千景さんが言った。
「凛太くんの彼なら、ちょっと関係者ですよね」
ふふ、と綺麗に微笑して、千景さんは少し首を傾げた。
――瑛士さんと、千景さんがちょっとの間、見つめ合う。
ふ、と教授たちが千景さんに視線を向けた。
「――?」
なんだろ。三人とも――変な顔して……?
不思議に思った瞬間。瑛士さんはその手を離して、そのままオレの肩を抱いて、引き寄せた。
わー……!!
なんだなんだ??
「凛太の関係者なら――可愛がってあげてくださいね」
「…………っ?」
なんで瑛士さん、こんな人たちの前でオレを抱き寄せるの……??
焦ってワタワタしていると――
千景さんが微笑して、部屋に戻りますね、と言い、廊下を戻っていった。
……さっき、入り口で会ってから、ついてきたのかな?
ちょっと不思議な気持ちになっていると。
教授たちが瑛士さんを見て、ふ、と笑った。
「――まあ、とにかく、部屋にどうぞ」
佐川教授が言うと、内海教授も続けた。
「明日の朝は、凛太を任せていいのか?」
「はい、もちろんです。連れて帰りますね。――すみません、こんなところまで迎えに来てしまって」
ちょっときまりが悪そうに言って、それでも、とても綺麗に微笑む瑛士さん。
「いやいや、そうなるかな、とは思ってたから」
そんな内海教授の言葉に、瑛士さんは苦笑して、でも、それから。
「さっきまで来るつもりは、無かったんですけど……ちょっとイレギュラーが起こりまして」
そんな風に言って、とても楽しそうに笑いを零した。
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