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169.瑛士さんの破壊力。

 教授たちが「おやすみー」「お疲れ」と、オレたちに言って、速やかに会場に戻っていった。  その姿が見えなくなるまでなんとなく見送ってから、ふ、と顔を見合わせた。  わー。何で、ここに瑛士さんが……。  そう思うけれど、心の中は、嬉しくて、ほくほくしている。  そのまま見つめ合っていると、瑛士さんはちょっと困ったように苦笑した。 「ごめんね、来ちゃって」 「えっ」 「……来ないで我慢しようと思ってたんだよ、ほんとはさ」  んー、となんだかきまり悪そうに言う瑛士さんに、オレははっと気づいた。 「――あ、あの」 「うん?」 「オレ、瑛士さんがここにいてくれて、すごく、嬉しいので。ごめんねって言わないでください」 「――」 「我慢とか……全然しないでくれて、むしろ、嬉しいので」  そう言うと、瑛士さんはオレを見つめて、にっこり微笑んだ。くい、と腕を引かれる。 「凛太、アイス食べない? あそこにおいしそうなアイスが……夜だからやめとく?」 「食べたいです。たまにはいいですよねっ」  わーい、と瑛士さんにくっついて、アイスの売ってるショーケースに向かう。 「ちょっと飲んでたからか、ちょうど甘いもの食べたかったんですよ」 「うん。ね――ちょっとほっぺ赤いもんね」  くす、と笑って、瑛士さんがオレの頬に、すり、と触れる。  優しい触れ方に、瑛士さんを見上げて、その顔に見惚れてしまう。 「ん?」 「……瑛士さん、眼鏡……」 「ああ。夜道の時だけね、かけるんだけど。そのまま下りてきちゃった。眼鏡のケースが車の中だからさ」 「――夜道用なんですね」 「うん。……? あんまりかけないからな。似合わない?」  眼鏡を少し上げながら、ふ、と苦笑する瑛士さん。  ……いやいやいやいや。  オレは心の中で、ぶんぶんぶんと首を振った。  いやいや、似合わないなんて、そんなわけなくないですか?  瑛士さんって、自分の容姿の破壊力、まったく理解してない気がするときがあるんだよね。  なんなら瑛士さんって、見つめるだけで好かれちゃう人だと思うんだよね。  だってさ、そもそも、この、オレが。  ……皮膚の下は全員同じ人間だし!とか思ってて、容姿なんて何も気にしてなかったオレがだよ。    瑛士さんに会ったときは、その整いすぎた外見に、めっちゃ見入って、感心しちゃったくらいなんだからさ。    じっと、瑛士さんを見つめたままで、ものすごい速さで、そこまで考える。  ――だから。つまり。 「……似合いすぎてびっくりな感じです」  そう言ったら、瑛士さんがふっとオレを見下ろした。  そして――とてもとても、嬉しそうな顔で、その瞳を。眼鏡越しに緩めた。  ずきーん。  ……し。心臓が、痛すぎる。  ほんとおかしいな。オレ。実は、オレ、めっちゃ人の外見に左右される奴だったのか。  あの頃の、「外見なんて」とか言ってたオレは、ただただ、ちょっとつっぱってただけの人間なのか……?  うーんうーんうーん……。  死ぬほど頭の中、ぐちゃぐちゃになりながら、アイスのケースに目を向けた。  どきどきしすぎだよね……オレ。  ……瑛士さんの顔が、めちゃくちゃ好きなのかな。  わー、やだな、なんか。見た目好きとか……。 「オレはバニラにしよっかな」  瑛士さんがそう言って、一つアイスを取り出した。  バニラかぁ……おいしそうだけど、チョコも捨てがたい……。  んー、と悩んでると。 「どれで悩んでるの?」 「オレもバニラにしようか、でもチョコも食べたいようなって」  そう言うと、くすっと笑った瑛士さんがひょい、とチョコを取った。 「バニラは、凛太が食べたいだけあげるから。チョコにしといたら?」  その目を和らげて、優しく言われる。うんうん頷いて見せると、瑛士さんはアイスのケースの蓋をしめてから、隣の棚に手を伸ばした。 「お水も買っていこ、少し酔ってるっぽいし」 「あ。酔って見えますか……?」 「うん。ちょっとね。赤い」  言いながら瑛士さんは、水のペットボトルを手に取ってる。  なんかすみません、酔っ払ってて、と思った瞬間。 「ほっぺ赤くて、死ぬほど可愛いけどね」  ひょい、と覗き込まれて、優しくそんな風に言われた瞬間。  ますます顔が熱くなった。  ああなんか。  ……外見とかじゃないのかもしれない。  瑛士さんが素敵なのは。もちろん外見もだけど。  たぶん、その表情とか……優しい視線とか。優しい言葉とか。  そういうのがめちゃくちゃ好きっていうのが根本にあるからかも。  思えば会った時から、その視線は、優しかった気がする。 「レジ行こ」  歩き出した瑛士さんの後ろ姿を見ながら、歩き出す。

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