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170.魅力をあふれさせるアイテム
エレベーターを降りて、静かな廊下を並んで歩く。
カードキーに書いてある部屋の前で立ち止まり、カードを挿した。
かち、と音がして、鍵が開く。ドアを開けて、中に入る。
まず目に入ったのは、並んだ二つのシングルベッド。
一人で入るはずだった部屋に、瑛士さんと二人。
ホテルに泊まるのってたまにはあるけど、いつも慣れないから、瑛士さんがいてくれて、嬉しい。
部屋はまあ普通のビジネスホテルだから狭いんだけど……。
いつも瑛士さんと過ごしてる部屋はものすごく広いから、なんだか、すぐ近くに、えいじさんと詰め込まれてる感じが、ちょっと新鮮で、おかしい。
ふふ、と笑ってしまうと、瑛士さんが首を傾げる。
「どした?」
「いえ……なんか。せまいじゃないですか、ここ」
「うん」
「いつも、瑛士さんを見るときって、瑛士さんの向こう側はいつもすごく広いので……なんか、新鮮で。……って、意味、分かりますか?」
そう聞くと、瑛士さんは「んー」と声を出しながら、ちょっと考えて。
「なんとなく分かる――でもさ」
「わっ」
むぎゅ、と抱き締められて、瑛士さんを見上げると。
「ここからの視界は、変わんないでしょ?」
「…………っ」
そんな風に言って、瞳をきらめかせてくるから。もう、絶対勝てない。
確かに。ここからだと、瑛士さんしか見えないけど。
……うぅ。なんか、恥ずかしい。
「あ。先にアイス、たべよっか。溶けちゃうし」
ちゅ、と頬にキスされて離される。
「凛太、スリッパ」
「あ。ありがとうございます」
使い捨てのスリッパに履き替えて歩くと、カーペットが柔らかい。見回すと、広くはないけど、清潔感はあっていい感じだった。
……ここで瑛士さんと泊まるのかぁ。なんだか、急に現れた瑛士さんに、現実感がないなぁ。不思議な気分になりながら部屋を見回す。
窓は部屋の奥にあって、薄いレースのカーテンから、外の光がぼんやり見えていた。カーテンを少し開けて外を見ると、周囲が暗いので、月も星も綺麗に見えた。
窓際の机に、瑛士さんがアイスと水を置いてくれたので、並んで座ってアイスの蓋を取る。
「ちょっと暗いね」
そう言いながら瑛士さんが、テーブルにあったライトのスイッチを入れてくれた。
オレンジ色の光に照らされた瑛士さんの顔。やわらかい光が、頬やまつげの影を淡く落とした。整いすぎていて、なんだか絵みたい。
首筋から鎖骨までのラインも、ほんと、なんかもう、理想的だし。
「あ、おいしいね、このアイス」
「そう、ですね」
頷きながら瑛士さんが微笑む姿にまた見惚れる。
椅子に座って、アイスを食べてるだけなのに。映画とかのワンシーンみたいに見えるのは、ほんとすごいと思う。
「瑛士さんて」
「うん?」
「……俳優さん、しようと思ったことは、ないですか?」
「俳優? ……いや、ないかなぁ。なんで?」
「いや……なんか、あの……座ってるだけで、ワンシーン、出来そうで」
「えー。……そうかな?」
首を傾げて笑ってるけど。
……絶対誰もが、納得してくれると思うんだけどな。
それにしても。
眼鏡。似合うよう。
思わず、ため息がこぼれそうになるくらい。
なんかもう……ドキドキしちゃって。心臓の音、瑛士さんに聞こえてしまうんじゃないかな。
こんなふうに、静かな光の中で見ると、余計に尊く感じてしまう。
って、さすがに見すぎかも、と、視線を逸らした時。
「凛太、バニラ」
瑛士さんの優しい声が聞こえる。そうだ、くれるって言ってたっけ。
瑛士さんとカップごと取り替えようと思って顔を向けると。
「ん」
目の前に差し出される、スプーンに乗ったアイス。
「え」
「食べさせたい。――ほら食べて?」
「え……」
ほらほら。と目の前でスプーンが少しだけ揺れる。
スプーン越しに、瑛士さんの、楽しそうに緩む瞳が、眼鏡の奥から覗いてくる。
うう。
……眼鏡って、なにか……魅力を溢れさせちゃうアイテムだったのだろうか。
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