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171.いてくれる意味

 口を開けるのもちょっと恥ずかしいけど、あまりに意識して躊躇ってると、余計恥ずかしくなりそうな気がして、オレは少し口を開けた。ぱく、とスプーンを口に入れると、ふわ、と甘い香が鼻を抜けてく。 「あ、バニラ……おいしいですね」 「ね。バニラがおいしいアイスって、他の味も皆おいしい気がしない?」 「あ、分かります。シンプルなのがおいしいと、ってことですよね」 「そうそう。はい、あーん」  またアイスをスプーンに乗せて、差し出してくる瑛士さん。  ぱく。と食べるけど。……瑛士さんが、じっと見つめてくるせいで、なんだか、味が分からなくなっていくような気がする。 「……ふふ。もっと食べる?」  瑛士さんはなんだかいつもよりも、とてもゆっくり喋ってる。 「いえ、もういいです。ありがとうございます。おいしかったです」 「んー。そう? もっと食べていいのに」  なんだかちょっと、残念そうな、瑛士さん。  ……なんか可愛い。 「瑛士さんも、チョコ、食べますか?」  思わずそう言うと、瑛士さんは嬉しそうな顔をして、くすくす笑って頷く。  なんとなく、オレが食べさせてもらったから、オレもあげたほうがいいのかな、と思って、スプーンに乗せると。瑛士さんが口を開けて近づいてくる。  ……わ。  近づいた瑛士さんの顔が。綺麗すぎて、ちょっと引く。  ……ほんと。アイス。食べてるだけなのに。オレが意識しすぎなのがいけないのかな。落ち着けオレ、瑛士さんはアイスを食べてるだけだから。  胸の音が聞こえちゃいそうだと思いながら、アイスがなくなったスプーンを引く。 「もっと食べます……?」 「ううん。ありがと」  にこ、と笑う瑛士さんに、なんだかほっとするような、もうちょっとあげたかったような。なんて思って、いやいや、なにそれ、と自分に突っ込む。  平静を装って、ぱくぱくアイスを食べて、自分の熱を冷やす。  はー。……何してても、強烈な人だなあ……。  なんか、あれだよね。初めて会ったときよりも、かっこよくなってる気がする。……なんで? ますますカッコよくなるって何だろう。……髪切ったとかもないし。    ……なんで?   今日は、眼鏡というアイテムがあるからかな。  この人、もうこれ以上カッコよくならなくていいと思うんだけどなぁ。  カッコよさの最大値だと思うのに。  いろいろ考えながらも、普通を装ってアイスを食べ終わる。  とったフタをカップの中に詰めてから顔をあげると、オレを見ていた瑛士さんと目があった。 「凛太、最後の一口。食べる?」 「いいですよ、瑛士さん、食べてください」 「ん。いいよ、食べて」  オレの言ってることはスルーして、瑛士さんが笑う。食べるのも最後だから、と思って――スプーンに乗せたアイスがオレのほうに来ると思って、口を開きかけたら、そのアイスは瑛士さんの口に入ってしまった。  あれ? 思った瞬間。  唇を緩めて、この上なく魅惑的に笑った瑛士さんの手が、オレの後頭部に触れた。そのまま優しく、引き寄せられて――。 「んぅ」  瑛士さんの唇が触れて、重なった唇の間から、舌が差し込まれた。  冷たいアイスが流れ込んできて――すぐに溶けて、口の中、いっぱいに、バニラの香りがした。  びっくりして、目を開けたまま。  眼鏡越しにオレを見つめていた瑛士さんの瞳が細められた 「……っふ」  ゆっくりと、熱い舌が絡んでくる。  ……きゅ、と瑛士さんの服を握った。  バニラの香りの甘いキス。冷たいアイスと、熱い舌。なんだか、ぞく、とした感覚。  ふ、と声が漏れたとき、一度唇が離れた。  ゆっくりと、メガネの縁に手を掛けて、瑛士さんが眼鏡を外す。  こと、と静かに眼鏡がテーブルに置かれた音が、やけに耳に響いた。  その手が、オレの頬に触れる。手、めちゃくちゃ、熱い。  ――その熱さが、気持ちいい。  眼鏡がなくなった、そのまんままっすぐの瑛士さんの瞳と見つめ合う。 「えいじさん……」  きゅ、と握ってた瑛士さんの服をもう一度握りしめる。  ……ここに、瑛士さんがいてくれる意味。  忙しいのに。……オレに会いに、来てくれたんだと思うと。  こんな狭い部屋に、一緒に、泊ってくれるとか。  オレと、一緒にいたいって、思ってくれたのが。  ――ほんとに嬉しい。 「来てくれて、ありがとうございます」  顔を見ながらそう言ったら、瑛士さんは一瞬、弾かれたように目を大きくした。次の瞬間には、優しく眉をさげて、ゆるんだ瞳で微笑む。そのまま、オレの後頭部に回った手に、再び引き寄せられる。 「可愛くて、たまんないんだよな……」  囁かれて――何か返す間もなく、覆いかぶさるみたいに、唇が塞がれた。    

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