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172.行動力。
「ふ、は……」
呼吸も感覚もぜんぶ瑛士さんのキスに奪われて、支えてくれる腕に預けていたら、そっと、離された。
くた、と瑛士さんの腕の中におさまる。
「――凛太……」
オレを抱き締めながら、瑛士さんがオレの名を呼んで、なにやら、オレの頭にすりすりと、頬を寄せている。
「凛太のベッドでねようと思って部屋に行ってさ……そしたら手紙見つけて……それで温めて食べて――そしたらさ」
「はい……」
「……凛太に会いたくてたまらなくなったんだ。経路検索したら、今なら空いてて一時間半ちょいで着くって出てさ。なら、凛太、まだ起きてるかもって思ってね」
「……行動力が、すごいですね」
感心しながら言ったら、瑛士さんが、ははっと笑って、オレを少し離した。オレの頬に触れながら、ふ、と瞳を細めて、見つめてくる。
「それだけ、会いたかったんだよ」
「――」
「凛太のいないベッドで眠れずに朝まで過ごすなら、一時間半で着いたほうが絶対いいと思って」
「瑛士さん、オレがいないと、朝まで眠れないんですか……?」
「んー……最近ずっと凛太と眠れてるから、どうなるか分かんないけど。眠れないかもなあ……寂しくて」
くす、と笑いながら、瑛士さんがオレの頬をぷに、とつまむ。
そこまで聞いていて、はっと気づいた。
そうだ、疲れてるんだろうから、はやく寝かせてあげなくちゃ……! 明日も朝から運転してもらわないとだし……!
「瑛士さん、もうシャワー浴びたんですよね」
「うん」
「じゃあオレ、すぐ浴びてくるので、待っててください! すぐ行ってきます!」
「ああ、うん……」
急いで動き出したオレに、瑛士さんはくすくす笑いながら頷く。
二人分のアイスのごみを集めてぽいっと捨ててから、オレは荷物から着替えを出して、ベッドの上の浴衣を手に取った。
「行ってきます!」
「うん。いってらっしゃい。待ってるね――あ」
「え?」
振り返って、楽しそうな瑛士さんの次の言葉を待っていると。
「オレも一緒に入ってあげようか?」
「――」
ぽかん、と一瞬呆けた後、「いえいえ、大丈夫です」と、ぶるぶる首を振る。
「えー残念……まあ、一緒に入ったら、長くなっちゃいそうだからなぁ……」
にや、と笑いながら言われたその言葉に。
なんだかあらぬことを想像してしまって、止める間もなく、顔が一気に熱くなった。面白そうにオレを見ていた瑛士さんは、くっ、と笑い出して、口元を押さえて顔を逸らした。
「もうもう! からかわないでください……っっ 行ってきます!!」
「はーい、待ってるねー」
瑛士さんの笑みを含んだ声を聞きながら、バスルームに入って、ドアを閉めた。服を置いて、バスタオルなどをチェックしていると、ふと、鏡に映った自分に気づいた。
――赤い、顔。
もー。瑛士さん、すぐ、からかうんだから。
そんなことを思うのだけれど。
――なんか顔。楽しそうだな、オレ。
なんだかすごく、くすぐったくて。
オレは両手で頬を挟んで、こしこし擦って、ちょっと顔を引き締めた。
引き締めても――なんだか、気持ちは。
ほわほわ、していた。
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