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174.我慢……。

 ……瑛士さんてさ。  ただ整ってるってだけじゃなくて……色っぽすぎるというか。  魅力、ありすぎなんだよね。もう。  そのすごいの、オレみたいな奴に、振りまかなくていいのに。  はー。顔が熱い。  空調の音がやけに耳に響く。  ひたすらにゆっくりと、荷物を片付けていたけれど限界があり、終わってしまった。仕方なく立ち上がる。 「歯、磨いてきますね」 「ん。じゃあオレも一緒にいく」  瑛士さんも立ち上がって、オレと並ぶ。  えええ……別が良かった……。思ったけど、拒否するのも変だなと思って言えず、そのまま一緒にバス―ルームに入った。  先に入った瑛士さんが、備え付けの歯ブラシを渡してくれる。  ありがとうございます、と受け取って、ぱく、とくわえる。  ……狭くて、瑛士さんが近い。  しゃこしゃこ磨きながら、ためいきが零れそう。  多分一緒に映っているだろう鏡は、なんとなく見れない。  本当にオレ――こういうのの経験値が低すぎて、もうお話にならない。  ていうか……オレは極端に低いけどさ。  過去に誰かと付き合ってる人だって、きっと瑛士さんとこんなに近くにいたら、無理なんじゃないかなあ。 「なんかさ」  笑みを含んだ瑛士さんのやわらかい声に、さらに心拍が跳ね上がる。 「いつもと違う場所っていうのも、新鮮でいいね。……なんかちょっと、ドキドキしない?」  そんな風に言って、ちら、とオレを斜めに見つめる。 「――」  ――そうなの? 瑛士さんも……ドキドキしてるのかな?  といっても、きっと、オレの心臓の速さには、及びもつかないのだろうけど。  少しは、オレといて――ドキドキ、してくれてるのかなって。  なんかそう思うと、嬉しいかも。  曖昧に頷いてから口をすすいで、部屋に戻る。 「――さて。凛太、どうしたい?」  ベッドの手前でオレを振り返り、そう聞いてくる瑛士さん。  どうしたいって何だろう、と首を傾げると、瑛士さんが続けた。 「ちょっと狭いよね、シングルって」 「……そうですか?」  狭いかな? 普通な気もするけど。  でも瑛士さんからしたら、大きいから、狭いのかも。 「瑛士さん、大きいですもんね」  そう言うと、瑛士さんはパッとオレを見て、何も言わない。  オレも、ん? と瑛士さんを見つめ返していると、瑛士さんは、ふと口角を上げた。 「違うよ、そういう意味じゃなくてさ」  意味がよく分からず、その続きの言葉を待っていると。 「一緒に寝るのには、狭そうだなーと思ってさ」  口元を押さえて、くすくす笑う瑛士さん。  ……そういう意味、かぁ。赤くなって狼狽えていると、手を取られた。 「ほら、こっちおいで」  やわらかく手を引かれて、ベッドの端に座らされる。 「――やっぱり、来て良かったな」  そう言いながら、瑛士さんは、自然にオレの隣へと腰を下ろした。  ……距離、近い。近すぎるんだけどな。  触れてしまいそうなところに、瑛士さんがいる。 「浴衣着てる凛太、見れたし」  顔が傾けられて、綺麗に微笑んだ唇が、目の前にある。 「……オレの、浴衣姿なんて……見て、嬉しいですか?」  思わず言ってしまったセリフに、瑛士さんは眉をあげてオレを見ると、またふんわり笑った。 「うん。すっごく、嬉しいね」  ――なんだかもう……ドキドキと緊張のせいで、爆発しそうな気分になってきた。 「……固まってるね、凛太」  なんだか、くすぐったそうに笑うと、瑛士さんの腕がオレの肩に回って、そっと抱き寄せられた。 「なんかすこし、いつもと違う雰囲気も――いいよね」  ぽんぽん、と肩を叩かれる。 「凛太、今日は遅くまで頑張ってたしさ。ゆっくり寝させてあげたいから。我慢する」 「――」  我慢、する?  何だろ、それ。思った瞬間。  瑛士さんの瞳と、視線が絡む。瑛士さんの瞳の奥にある、熱っぽいものが。ふ、と伏せられて。  ちゅ、と頬にキスされた。  ……なんだかもう、この世で一番、綺麗なキスの仕方なんじゃないかと、思ってしまった。  傾けた顔の感じも。オレに触れてる綺麗な指も。触れた綺麗な唇も。  そのままゆっくり唇は離れて、至近距離で見つめられる。  何も答えられずにいると、瑛士さんがゆっくり立ち上がって、もう一つのベッドに腰かけた。 「今日は、別々に寝よ。このベッドじゃ、凛太、落ちちゃいそうだしさ。オレも、凛太と寝るの我慢するから――まあ、隣にいてくれてるしね」  瑛士さんがそんなことを言う。  確かに、狭いし。  瑛士さんも寝辛いと思うし。  明日も朝早く運転してもらわないといけないもんね。  ゆっくり寝てほしい。  ……のだけれど。

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