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175.いつもとは少し
ベッドに横になって、布団の中に入る。
部屋の灯りを落として、隅の方のオレンジの光だけ残したので、瑛士さんの顔は見える。
ふたりで横になって、寝たまま向かい合ってる感じ。
「瑛士さん、もう、眠いですか……?」
「まだかな……横になってたら眠くなるかも」
「ちょっと、話してもいいですか?」
「もちろん。いいよ」
楽しそうに目を細めた瑛士さんは、片肘をついて頭を支えた。
その視線が、ゆっくりこちらに向いた。
……そんな動きだけで、どうしてこんなに色っぽいんだろう。もう不思議すぎる。
「今日の集まり、すごくいろいろで、興味深かったんですよ……」
「そうなんだ。どんな発表だった?」
「んーと……二次性徴が遅れたり、不定期だったり……αとΩが逆転したりの症例とか。フェロモンが少ないっていうのも聞いて、あー、おんなじような人もいるんだなぁ、とか」
「うん」
「――抑制剤が効かない人もいるって……効きにくい人はいるとは思ってたんですけど、効かないってきついですよね……」
「そうだね……長く飲むと耐性もできちゃうかもしれないしね」
「そうなんですよね……」
んー、と二人、眉を寄せる。
「あ、あと、これは初めて聞いたんですけど」
「うん」
「Ωのフェロモンを分析してヒートの誘発剤に使う、とか……ヒートが来ない人の不妊治療の一環みたいなこと言ってましたけど……他の人たちの反応は微妙でしたね……」
「へえ……まあ。そうだろうね――確かにいろいろ勉強になるね。オレも出たかったな」
「興味ありますか?」
「うん、あるよ――あ」
瑛士さんが不意に起き上がって座り、考え深げに自分の顎に触れた。
「そういえば……受付のところで会った人」
「あ、千景さん、ですか? めちゃくちゃ綺麗な人ですよね」
「――彼は、どういう人?」
「どういう……えーと……オレも少し話しただけなので……」
「そうなの?」
「中庭のコーヒーのところでちょっと挨拶して……なんか、製薬会社の関係の人みたいでした。オレと同じ感じでスライドとか操作してたので」
瑛士さんは少し黙ったあと、ふとオレを見つめた。
「……フェロモンの発表した製薬会社?」
「え――あ、そうです。何で分かったんですか?」
「んー……いや。なんとなくだけど」
なんとなくで分かるのすごいな。
頷きながら瑛士さんを見ていると、瑛士さんが、一息ついた。
「まあ……いろんな研究がされてはいるよね」
「そう、ですねぇ……」
されてはいるけど、あまりΩにいいことはないのが現状なような気もする。
「凛太のフェロモンは――最初分からなかったけど、オレは分かるようになったからなぁ……それは、フェロモンが少ないとかじゃないよね。一度分かったらもう、ちゃんと感じるから」
そう言われて、その台詞の意味に、何も答えられない。
……だって、フェロモンが出るときって……。
もぞ、と動いて、ちょっと布団を掛けなおしていると、瑛士さんがくすくす笑った。
「こういう会話、恥ずかしい?」
「……」
黙って、頷くと、瑛士さんは楽しそうに、そっか、と言って目を細めた。
「まあ、オレだけが凛太のを分かるなら、心配ないんだけどなぁ……」
「……いまのところ、竜と瑛士さんだけですけど……そう言われると、この先、皆に分かるようになったら、薬飲まないとだめかもですね……」
その時までに、薬作れてるといいけど。……って、そんな簡単にはいかないかなぁ……がんばろ。
「そんなことになったら、オレが守るから」
「――ふふ。はい」
「あ。笑ってるけど。オレは、真面目に言ってるからね」
「……はい」
もう一度頷いて――顔がほころぶのを、止められない。
そんなふうに言ってくれる瑛士さんの存在が、嬉しい。
「本当の意味で良い薬が欲しいよね」
「そうですね。ほんとに」
うんうん、と頷いていると、瑛士さんがまた横になった。
――横になると、なんだかすごく無防備というか。
髪がさらさらと流れて、少しだけ、いつもより若く見える、というか。ちょっと可愛く見える。
いつもは、布団の中で、抱き締められてしまうから、こんな風に離れては見ないのだけれど。
離れて見る瑛士さんは、いつもとはまた少し違ってて。
それはそれで、とても、好きだなー、と思う。
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