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179.出会いに感謝

「凛太と初めて会ったときさ」 「……? はい」 「オレが、じいちゃんからCEOを引き継いだって言ったとき、凛太がなんて言ったか覚えてる?」 「えーと……」  記憶をたどって思い出した瞬間、あ、と固まる。  ……たしか、あの時……。 「お父さんいないんですか、って聞かれたんだよね」  ……うん。そうですね。確かに言いました……。   「で、いるよって言ったら、お父さんは、すっ飛ばしたんですか?って言われてさ」  オレは、あああ……と心の中で、崩れ落ちる気分。  ……知らないとはいえ……いや違う。知らないからこそ、言っちゃいけけなかったのでは。あの時は、変なお店に話を聞きに行く決心をしたのに、それを邪魔されて、なんか、あまり気遣うこともできなかったような……って言い訳か……。  かなり落ち込んでいると、瑛士さんが急に明るい声で言った。 「あれ、すっごく面白かったんだよね」 「……え」  逸らしていた視線を瑛士さんに戻すと。瑛士さんは、く、と笑った。 「実態としてはさ、今はグループをホールディングス化して、オレがそのトップ……つまりCEOに就いてるんだけど。父さんはその下の、薬局と不動産とかの事業会社の社長として、グループの稼ぎの大半を握ってる、いわばもう、現場のリーダーな訳」 「……じゃあ、完全に追い越した、っていうのとは全然違うんですね……」 「そうだね。じいちゃんとしては、病院の理念を守る司令塔にオレを、利益を生む実務には父さんを、っていう役割分担をさせたんだと思う。まあ、父さんにしてみれば、面白くない部分もあるだろうけど……表向きはじいちゃんが、若い者の新しい血を入れよう、とか言ってるし。じいちゃんが元気なうちに、オレを鍛える、とか。いろいろ理由つけてるからさ」  なるほど、とうんうん頷いて聞いていると、瑛士さんが続ける。 「父さんもね、自分の事業があるから、あえて波風を立てる必要もない、っていうのが、今のパワーバランスが保たれてる理由かな。だから――父さんをすっ飛ばしたとか言う人、いないからさ」 「いや……オレが、まったく何も考えずに……ただ代々継ぐものじゃないのかなって……あと、瑛士さんすごく若く見えたので、CEOとか不思議って……」  オレがモゴモゴ言い訳を連ねていると、瑛士さんはまたおかしそうに笑って、言った。 「それでもね。ずばり言われて――なんか……おもしろいなーって思ったんだ。凛太には言わなかったけど、確かにそうだよね。すっとばしたように、思う人もいるよねって……」  瑛士さんは、ふ、と思い出すように目を細めた。 「そしたら、凛太は、父親からのお金は使いたくない、とか……そんなこと言うし。なんかもう……父親かぁ……って、オレもいろいろ思うことあるからさ。話せば話すほど、ほっとけなくなっていって」 「――……」 「それで、今みたいになっている。……って、凛太との間には、いろいろあったから、そこらへんはきっかけにすぎないけどね」  なんとも言えず、黙って聞いているオレに、瑛士さんは微笑みながらまた続ける。 「凛太と話した後さ、やっぱりそう思われるだけの何かが、オレとじいちゃんと、父さんの中にはきっとあるんだよなって――それでも……まあ頑張るしかないよなって、思ったりもしてさ」  なんか――瑛士さんはすごいな、と思った。  あんなオレなんかの言葉で――そんな風に考えて、ちゃんと前を向くんだから。 「CEOってさ――各事業会社の利害の調整とかもあって。父さんがバリバリ稼いでいる中で、でも利益だけを重視も良くないオレは思うし、じいちゃんもそう。……会社の偉い人たちも、それぞれ考えが違って――どっちを優先するか、とか。常に考えなきゃいけないし、色んなことを言う人も、いる訳」 「……はい。オレでも、なんとなく、想像は出来ます」 「それでもじいちゃんはいるし――直接何かすごく言われるとかはまだないし……頑張ってはいるんだけど、あまり大きく表に出ないストレスみたいなのが、多分、眠れないっていうのにつながってたんだよね」  なるほど。と。  ものすごく納得してしまったりする。  ――瑛士さんの肩には、でっかいグループのいろいろが。お父さんや雅彦さんとのことも含めて、重くのしかかってるんだな……と。 「まあ。とにかくね」 「……はい」 「オレ、こんなに可愛いと思うなんて。最初は思ってなかったけど――……でも、最初から、凛太はすごく面白かったんだよ」  ぷ、と吹き出して、瑛士さんは片手で口元を押さえてる。 「面白かったって……」  面白かったって言われても……ちょっと、なんか……失礼だっただけな気もするし。いいのだろうか……。  複雑な気分でうんうん考えていると。瑛士さんの手が、オレの頭に、ふわっと乗った。ぐりぐりと、撫でられる。 「――凛太といると……なんか、オレは、楽になる」 「――」 「ほんと。出会ってくれて、感謝してる」  朝陽に照らされてる瑛士さんは、とっても綺麗で、カッコいい。  そんな風に、真面目に言われると――胸の奥、熱い。 「それは、オレのセリフだと思います」 「――そう?」 「神様からのプレゼントって――あのとき言ったこと。ずっと思ってます」 「ああ――その台詞ね。ものすごく、可愛いと思ったの、オレも覚えてるよ」  ふ、と微笑んで目を細める瑛士さんが眩しくて――目が逸らせない。

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