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184.答えが出なくても

 午後の授業が始まった。――ちょっと眠たい。甘いものが血糖値、上げたかなぁ。でもおいしかった。……もー今日は幸せ。  ふわ、とあくびをかみ殺しながら、ノートをとる。  そこで不意に思い出してしまった。――ああ、あの人の所にいくの、もう明後日なんだ。途端に、どうしても気分が落ちてしまう。  ――そこでふと、瑛士さんのお父さんの話が、脳裏をよぎった。  ……仕事人間、か。割とよく聞く父親像だけど。しかも大きい会社を動かしてる人なら余計そうあってもおかしくはないのかも。  それで言うと、あの人も、仕事人間……なんだろうか、とそう思った。というかまあ――仕事人間というか。オレに興味がないというか?  ――……瑛士さんは、やっぱり、優しいなあ。  あんな風になりたくない、なんて言いながらも、完全に否定はしていなかった。尊敬してる、とも言ってたし。お母さんに対して、態度も言葉も足りなかったのを、不器用だって表現してた。――恨んでいないって。交流が無いのはきっと不器用なのと忙しいからってことで、瑛士さんは、お父さんを嫌っても憎んでもいない。  それに、比べると、オレは――どうなんだろう。ちょっと口元に手を当てて、俯く。  父は、母さんのところには、来ていた。よく覚えてないけど――大きくなってからは、オレが学校の間に来てたのかな。……ヒートの時もあっただろうし。  たぶん、あの人はオレを好きではない。オレもそう。  どっちが先だったんだろ。オレが可愛くないから、あの人はオレを好きじゃないのか。あの人が冷たく感じたから、オレがあの人を嫌だと思って――それであの人も、なのか。  ……分かんないけど。βだって言ったときの、がっかりした感じは確かだし。母さんが死んだときの……面倒は見る。って言い方も、すごく嫌だったし。それをいらないって言えない、自分のことも――。 「――」  ……でもそうか。  放り出すことも、できたのに……家とお金は。出してくれてるのか。  それに頼ることすら嫌だと、思い続けてきたけれど。  あの人は――母さんを、愛してたのかな……。瑛士さんのお父さんみたいに、いなくなった母さんを、想ったり、したのかな。  そんなこと――考えもしなかった。  ……そんな、いい人じゃない可能性も多々あるけど。  よく考えたら、何でオレにお金出してるんだろう。愛人の子だから、世間体とかで死なれても困るし、みたいな。そんな感じだと、ずっと漠然と思ってたけど、聞いたわけじゃない。……いや。聞いたら、そのまま返ってきそうで、嫌だし。聞く気もなかった。  ――……あの人は瑛士さんとは違う。  笑わない人だった。  ――母さんは、どうして、あの人と番になったんだろう。  Ωだから? ヒートとかで仕方なく? 聞いたことはない。  でも、オレのことは、母さんは愛してくれてた。それは感じてた。  てことは――父のことも、愛してたのかな。愛してない人の子どもなんて、愛せない、と思ってしまうんだけど、どうなんだろう。  知らず、噛みしめてた唇に気づいて唇を解く。同時に、授業を全然聞いてなかった事にも気づいて、顔を上げた。  あの人のこと……初めて、こんな風に考えちゃったな……。  ――答えなんか、出ないけど。  そして、明後日、瑛士さんを連れていくのが、とてつもなく嫌なことには、変わりはないけれど。絶対嫌なこと、言われるんじゃないかとは思ってしまうけど。  瑛士さんがいなかったら、こんなこと、一生考えようとも思わなかった。  いろいろなことを、いろいろな方から考えることは。  考えたことによって、なにも変わらなかったとしても。  きっと、オレにとっては、いいことだと思う。  神様の贈り物。  瑛士さんのことを、ほとんど知らないときに、言った言葉。  瑛士さんは、本当に、いろんな意味で――  オレにとっては、そうだったみたい。

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