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185.鏡の中の自分

 お風呂に入る前に時計を見たら、二十二時半だった。  今日は瑛士さんは遅くなると連絡がきたので、オレも今日は大学で簡単に食事を済ませて、時間を気にせず勉強してきた。シャワーを浴び終えて、鏡の前で瑛士さんに教わった肌のお手入れをする。  手本になってるのは、瑛士さんがやってくれたときのやり方。  ちょっと化粧水を手で温めてから、押さえるようにゆっくりなじませていく。  ――ほんの数日なのに、なんか。潤ってる感、すごい。  こういうお手入れ、したことなかったから余計かな。  触れる肌が、もちもちしてる感覚。指先でふにふにと触ってしまう。  ちょっと気持ちいいかも。――瑛士さんが、触るときも、前よりちょっと気持ちいいかな……?  なんて思いながら頬に触れて、はっと気づく。  わー。瑛士さんに触られるときのこと、想像ちゃった。恥ずかしいなもう……。誰かに聞かれたわけでもないのに急に恥ずかしくなって、かぁっと頬が熱くなる。手で頬を挟んで、ちょっと冷やしながら、ふ、と口元がほころぶ。  誰かに触られたいとか。  ……初めて思うかも。  ――って、触られたいのか、オレ。  なんだかますます恥ずかしくなって、ぷる、と首を小さく振ると、きゅっ  と化粧水の蓋を閉めた。  鏡に映る自分の顔は――なんだか、少し赤い気がする。お風呂に入ったせいかもしれないけど、それだけじゃない気もする。  三年間。――瑛士さんといる期間。まだわりと始まったばかりなのにな。  初めて会ったときは、瑛士さんの存在が、オレの中でこんなに大きくなるなんて、想像もしなかった。  ちょっと人生は重なったけど、基本的に全然関係のない人、で終わると思ってたんだけど。  ――もうほんと今でも不思議だけど、明後日は父のところに一緒にいってくれる。  結婚が完全に契約のままだったら、父にどんなこと言われても全く気にしないし。瑛士さんに申し訳ないなんて思わなくて済んだと思うんだけど……。  今の状況は大分違う。瑛士さんはきっと、ちゃんと挨拶してくれるつもりなんだろうな……。オレのお父さんだからって。ちゃんと誠意をもってそうしてくれる人に。あの人は、なんて言うんだろう。  嫌なこと、言わないでくれるといいけど。  とりあえず、せめて、瑛士さんにだけは。  ちょっとため息をつきながら鏡を見ると、乳液もすませた頬は、なんだかツヤツヤしている。  そのとき。鍵が開いて、ドアが開く音とともに。 「凛太―」 「あ」  瑛士さんだ! そう思った瞬間。  鏡の中の自分が、めちゃくちゃ嬉しそうに笑った。ちょっとびっくりして――自分の顔を、見つめてしまう。  なんかオレ……どんだけ、瑛士さんのことが好きなんだろう。  三年間、瑛士さんは、凛太に好きになってもらうとか、言ってたけど。  よく考えてみると……もうとっくに、好き、な気がするし。  たぶん瑛士さんは、それにも気づいてる。……と思うんだけど。  だってオレ、瑛士さんの前で、ポーカーフェイス、できてないんもんね。  どうしてなんだろ。今までは――そんなに見せずに生きてきたのに。

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