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187.気まずい雰囲気
翌日の夕方。そろそろ帰ろうと思っていたところに、瑛士さんが大学まで迎えに来てくれた。途中のお店でご飯を食べてから、麻里さんのエステに向かう。
最初にエステに行った日以来ってことは……オレが立ち聞きしちゃってたことが知られちゃって以来なので、ちょっと気まずい。最初の日よりもドキドキしながら、店の入り口に近づいた。瑛士さんが先に、開いた自動ドアに足を踏み入れると、明るい「いらっしゃいませ」という声が響いてきた。
こんばんは、と会釈しながら中に入ると、麻里さんとスタッフさんたちがオレと瑛士さんの目の前に立ち、不意に頭を下げられてしまった。
「嫌な思いをさせてしまって、申し訳ありませんでした」
麻里さんの言葉に続いて、スタッフさんたちも、申し訳ありません、と声をそろえた。
えっ、とめちゃくちゃ焦る。瑛士さんが、くす、と笑いながらオレの肩にぽんと手を置いて、自分のほうへと少し引き寄せた。
「あの……オレのほうこそ、迷って入っちゃいけない方に行っちゃってすみません。それに――言ってることも、別にひどいことでもなかったですし」
慌ててそう言ってると、麻里さんがふっと顔を上げた。
「いえ。事実無根ですし、瑛士さんと私がなんて、きっと嫌な思いをされたと思います」
「――……お似合い、だなぁとは思いました」
そう言うと、瑛士さんが、ぷっと吹き出して、オレの頭を、ぽん、と軽く撫でた。
「お似合い、じゃないでしょ」
呆れたような、でもなんだか楽しそうに笑って、それから麻里さんとスタッフさんたちを順番に見つめて微笑んだ。
「凛太はこんな感じだからさ――もういいよ。もともと怒ってなんかないし」
「いえ――社員全員、再度徹底しました。もうこんなことがないように気を付けます」
「うん。もう、それでいいよ」
瑛士さんがくすくす笑いながら言って、オレを見つめて、「ね?」と微笑みかけてくる。
「はい。っていうかオレ、本当に大丈夫です。というか、オレのほうこそ、本当にすみませんでした……」
オレがそう言うと、オレの髪をひと撫でしてから、ちょっと肩を竦めて言った。
「麻里さんとオレが結婚なんて絶対ないから。――ていうか、麻里さんのほうから、ないでしょ」
ね、と麻里さんを見る瑛士さん。
その視線の先で、麻里さんは、ふふ、と綺麗に微笑んで頷いた。
「瑛士さんはとても素敵ですけど……そういう関係にはなりたくない方ですね」
そう言って微笑む麻里さんは、本当に綺麗だ。
透き通るみたいな肌に綺麗な唇。長い睫毛の下の瞳は凛として前を向いてて。自信にあふれてる。
髪も艶々しているし、瑛士さんと並んでいると本当に、お似合いだと思ってしまう。だから――正直、謝られるのもなんか違うなぁとは思う。
だってほんとにお似合いだし。スタッフさんが言ってること、分かる。
そう思ってるオレの目の前で、二人がくすくす笑い合っていると、スタッフさんたちも、少しきまりが悪そうにではあるけれどやっと微笑んでくれて、ようやく謝罪モードな雰囲気が薄らいだ。
よかった。そう思ったとき、麻里さんがオレに視線を向けた。
「そうしましたら早速、凛太さん、行きましょうか」
「あ、はい。お願いします」
頷いて麻里さんについて行こうと歩き始めると、麻里さんはくるっと瑛士さんを振り返った。
「凛太さんを、お借りしますね」
「――ん。よろしく。ちゃんと返してね?」
苦笑しながら、ふざけて言った瑛士さんに、麻里さんはくすくすと柔らかく微笑んで、「凛太さんどうぞ」と案内してくれた。
更衣室で着替えてから、施術室に入る。今日も前の時と同じく、部屋はとても柔らかい光に包まれていて、静かな音楽が流れているし、いい匂いもする。促されて施術の台に腰かけると、麻里さんが準備をしながら、オレに視線を向けた。
「本当に、ごめんなさいね、凛太さん」
「いえ。ほんとに、大丈夫なので」
そう言って、首を振って見せると、麻里さんはちょっと口を閉じて、オレを見つめると、くすっと笑った。なんだか少し意味ありげな笑い方な気がする。顔を見上げるオレに、麻里さんは少し首を傾げた。
「――本当に、大丈夫って思ってそうですね」
くすくす笑う麻里さんの言葉の意図がつかめず、続きを待って、黙る。
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