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188.絶世の……?
麻里さんは、ゆっくりとした口調で言った。
「その大丈夫、はどちらなのか、聞いてもいいですか?」
「どちら……?」
「私との噂なんて危機感を持つ必要すらないくらい瑛士さんに愛されてるから大丈夫、と言ってるのか――それとも、本気で、私と瑛士さんがお似合いだと思ってて、怒る気もないから大丈夫、なのか」
「――」
「私の質問の意味、分かりますか?」
ふふっと笑って、オレを見つめてくるまっすぐで綺麗な瞳に、はい、と頷いてから考える。
「どちらに近い『大丈夫』ですか?」
「――え……と、ですね……」
そのふたつで言ったら、明らかに、後者なんだけど。
それを言うのは少し躊躇って黙っていると、麻里さんはオレに、横になるように促した。
「その様子だと、凛太さん、本気でお似合いだと思ってるんですね」
笑いを含んだ声で言いながら、麻里さんがオレの下半身にブランケットを掛けてくれた。
「私たちがお似合いかどうかは置いておいて――いいんですか、凛太さんは」
「……?」
「瑛士さんが、凛太さん以外とお似合いということ、嬉しいと思うんですか?」
そう言われて、ちょっと息が止まる。
「――嬉しく……」
瑛士さんがこないだ言ってくれた言葉が、ふっとよみがえる。
『お似合いなんてさ――他の人の目にどう映るかとか、どうでもいいよ』
『だって、オレが可愛いと思ってるんだから。オレにとっては、それで十分だよ』
瑛士さんは、そう言ってくれた。それを聞いたらオレ……泣いちゃったっけ……。ああ、なんか……。
「……嬉しくは、ない……です」
そう言うと、麻里さんは、オレを見つめて口角を上げた。
「ですよね。そしたら、お似合い発言は、もう無しにしましょうか」
やわらかい声で言われて、オレが小さく頷くと、麻里さんはくすっと笑った。
「温かいスチームを当てますね」
ふわ、と心地よい温もりの霧が顔を包み込んだ。いい香りがして、それは一瞬思考を停止させて、ただ穏やかな時間へと誘う。オレは目を閉じた。
――瑛士さんの顔が浮かぶ。
麻里さんとスタッフさんたちに、気にしないでもらいたくて、自然と出た言葉だった。すごい悪口を言われたというよりは、もう、誰もが思うような当たり前のことを言っていただけだから、気にしないでほしい、と。
だって……瑛士さんも麻里さんも、とっても綺麗で大人で、対等な感じがして、並んでいると本当にお似合いだと思ってしまうし。
でも。
他の人の目にどう映るかは関係ないって言ってくれた瑛士さんに、オレ、また余計なことを言ってしまったかも。
瑛士さんは、隠そうと思えば、嫌な気持ちとかも、余裕で隠せてしまいそうだから……さっきも、どう思っていたか、ほんとの気持ちはわからない。
麻里さんたちに気を使った分、瑛士さんに嫌な想いをさせちゃってたら……。
地面に埋まってしまいたいような。そんな気持ちになったとき。
スチームが止まって、タオルで顔を拭かれ始める。綺麗に拭き取られてから目を開けると、麻里さんと視線が合った。
「次はクレンジングをしていきますね」
オレの顔に麻里さんの手が触れて、クレンジングが始まったので、また目を閉じる。優しく繊細な指使い。
すこしして、麻里さんが「ちょっといいこと、教えますね」と言った。
「凛太さんが、ここに来たのは二回目ですけど……私、その前から、瑛士さんに凛太さんのこと、聞いてたんですよ。あ、お返事はしなくていいですよ、勝手に話すので」
ふふ、と笑う麻里さんは、指を動かしながら、続けた。
「私と、仕事の話をしてるときでも、凛太さんの話が入ってくるんですよね。お味噌汁がおいしくて、とか、可愛くて、とか。凛太さんといると眠れるようになったから肌の調子がいいよ、なんて言うし……あんな風に、誰かのことを話す瑛士さんは初めてで、どんな相手なんだろうと思ったら、かなり年下の大学生っていうでしょう。最初は正直、どうしちゃったんだろうって思ったんですよ」
「――」
「でもね、なんだかすごく楽しそうで。あ、これ惚気なんだなって気づくまでにすこし時間がかかっちゃって」
オレのいないところでまで、そんな可愛いを連呼してるのか、瑛士さん。……恥ずかしすぎるかも……。今、答えられない状況なのが、助かる。
麻里さんは、優しく触れながら、笑みを交えて続ける。
「今回のエステを頼まれたときも――凛太はもともと可愛いんだけど、肌とか整えたらもっと可愛くなると思うからよろしくって言われて……可愛いって言いすぎじゃないですかって、思わずツッコんじゃったのよ、私。そしたら、だって可愛いんだよ、とか言って。もう、私、絶世の美少年なのかなって、思っていたの」
もう、ほんとに、顔が熱くなる。触ってる麻里さんにバレちゃいそう。
絶世の美少年でなくてすみません……。うう。
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