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189.自信、かぁ……

「だから正直、凛太さんを初めて見たときは——あれ? って思ったの」  ちょっと言いにくそうに言われて、まあほんと、絶対「絶世の美少年」ではないから、それはしょうがないし。と思っていると。  「でもね」とすぐに麻里さんが続けた。 「すぐに、瑛士さんが凛太さんを見る視線が全然違うって思って。ああ、本当にこの子が可愛いんだなって」  ふふっと微笑みながら、麻里さんが仕上げに顔を綺麗にふき取ってくれた。 「起き上がって、目を開けていいですよ」  そう言われたので、体を起こしてゆっくりと目を開ける。そっと鏡を差し出された。 「お肌が明るくなったの、わかります?」 「……はい、わかります。オレ、もしかしていつも、ちゃんと洗えてないんですか……?」  頬に触れながら言うと、麻里さんはクスクス笑った。 「いえいえ。いつも普通に洗えてますよ。――そこは、エステですから。毛穴を開いて、特別に綺麗にしてるので」  麻里さんはタオルを片付けてから、また横になるように言った。また仰向けになると、今度はマッサージが始まる。首から肩や鎖骨にかけて指圧しながら、流していくような動作。……リンパのマッサージかな。老廃物を流していく感じ。……めっちゃ気持ちいい。 「さっきね、瑛士さん――ちゃんと返してね、なんて言ってたでしょう? あれ、冗談ぽく言ってたけど、きっと本気よね。本当に早く返してほしいのよ、きっと」  麻里さんは少し呆れたように笑った。 「自分でエステを頼んだのに、その施術者に嫉妬とか、ありえないわよね。下手なことしたら、融資、止められちゃうんじゃないかしら」  そんな風に言って笑いながら、麻里さんはマッサージを続けてくれる。 「まあ、それは冗談ですけど。……もう少し、凛太さんは自信をもってもいいんじゃないかなって思うの」  その言葉に、確かにオレ、自信っていうのはないかもなぁ……と、ぼんやりと思っていると、麻里さんはくすっと笑った。 「ここ、すごくいい場所でしょう? 静かで広くて、周りの雰囲気も良くて」 「――はい」 「最初用意していた分では、間に合わなくてね。親は結婚を望んでたから頼れないし。でも諦めたくなくて――そんなとき、瑛士さんが快く融資してくれて」  麻里さんはやわらかい口調で言って、少し黙った。でも手だけは、動いてて、ずっと心地いい。  しばらく間をおいてから、麻里さんは続けた。 「ずっと関わってきたけど……本当に、あんな瑛士さんは初めてで。凛太さんが瑛士さんの大事な人なら、本当に、幸せになってほしいって思ってるの」  そう言って、麻里さんはまた、ふ、と笑いをこぼした。 「だからね。さっき、凛太さんにした質問だけど――私的には、瑛士さんに愛されてるから大丈夫って、自信をもってほしいなって思うの……って、私が言うことじゃないんだけど」    オレは目を閉じたまま首を振って、その言葉の意味を考える。    自信。かぁ……。  ……オレは、瑛士さんのことが好き。今だけでもいい、なんて言って、予防線を引いても一緒にいたいくらい。それくらい、好きだと分かってるのに、やっぱり自然と一歩引いてる。  ――沈黙が心地いい。麻里さんは、静かにマッサージを続けてくれていたけれど、やがて、手を止めた。 「はい、今日はこれで、おしまいです。ゆっくり起き上がってくださいね」  そう言われて、ゆっくりと起き上がると、首回りもすっきりして、顔もなんだかいい感じ。 「ありがとうございます。……今日もめちゃくちゃ気持ちよかったです」 「ふふ。そう言っていただけると、嬉しいです。そうだ、凛太さん、次は脱毛もしてみませんか?」 「……脱毛って、痛くないですか?」 「今の技術ならほとんど痛くないですよ。今日は小顔マッサージもしましたし、次回にしましょうね」 「はい」  麻里さんの言葉に、オレは頷いて、ありがとうございました、と伝えた。  更衣室に入り、着替えながら考えてしまう。  オレが、一歩引いてしまうのは、オレが傷つきたくないからっていうのもあるかもしれないけど。  それだけじゃなくて——傷つけたり、嫌な思いをさせたくないから、なのかもしれない。    ……瑛士さんも麻里さんも、自信があって、まぶしいよね。  オレは、Ωだってこともだし。  便利だと思ってはいたけれど、フェロモンが少ないっていうのもずっと「欠陥」かなと思って生きてきたし――。  母さんがいなくなってからは、一人だったし。  ……あんまり自信の源になるようなことがないのかも……。  だからこそ、とにかく頑張って、人の役に立とう、みたいなほうに頑張ってきたのかもしれない。  自分がいることを、肯定したかったんだろうか。  オレが隣に立つと、いつか迷惑かけるかも、とか。  そんな風な、弱い気持ちが浮かんじゃうのって、ほんと……なんだかなぁ。  こういう気持ちって、どうやれば、消すことができるんだろう。  瑛士さんや麻里さんみたいに考えられたらいいなって思うんだけどな。

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