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第3話 嫌い
翌朝、どんな顔をしてカミュに会っていいかわからなかったけれど、
彼は全く気にしていない様子だし、
俺の言動も意思に反して自然にカミュを雑に扱っていたし…、よくある事なのだと再認識した。
昨夜決意した通り、これは治さねばならない。
俺のためにも。
あんなの、好きでもない相手としちゃいけないし、強要するなんてもってのほか!!!
俺は決意して、昨日ラルフが放り出した仕事をすることにした。
第一王子には小言を言われ、俺の口もとんでもない理論で言い返していたが、俺自身はちゃんと仕事をした。
その様子をみた母親に「ラルフちゃんが立派に執務をこなしている!」と感涙されてしまった。
どんだけヤバかったんだよ、ラルフ…
そんなふうに過ごしているうちに俺の思考とラルフの体がちゃんとリンクし始めたのか、段々と意思に反した動きをしないようになってきた。
つまり、カミュへの態度もかなり軟化してきたと思う。
ちゃんと仕事をこなしているからか、夜もちゃんと眠れて、初日以外は慰めてもらってないし!
俺の執務中に彼を拘束するのも悪いと思い、最近は仕事中は好きなことをするようにと言ってある。
彼は不服そうではあったが、「それなら、鍛錬でもしてきます」と、騎士団の練習に参加しているらしい。
俺が付き人をしていて「好きに過ごしていい」なんて言われたらサボりまくるのに…、改めてカミュはいい男だ。
俺なんかが縛り付けていい相手ではない。
以前の俺の付き人をしていたカミュは、女関係の浮いた話もなかったようで…
いくら20歳で結婚には早いにしたって、恋人くらい欲しいものだろう。
執務として、隣国のお偉いさんの接待をしたら、お土産として隣国の名産品を使用したお菓子をいただいた。
お母様に「お仕事ばかりで疲れるでしょう?ラルフちゃんは頂いたお菓子を食べて休憩してきたら?」と提案され、俺はすぐにカミュと食べようと思った。
2人分のお菓子を抱えて、カミュを探した。
カミュが歩いているのを見つけて、俺は声をかけようとしたが、どうやら友人と歩いているようで少し躊躇う。
2人は俺に気づいていないようで、友人が「そう言えば、カミュはまだ第二王子の付き人なの?」と聞いた。
俺の話!?
正直、カミュが俺のことをどう思っているか気になる!
最近は優しくしているつもりだが、中身がラルフだった頃は嫌いだったと思うし…
「そうだね、まだ付き人だよ」
「うへぇ…。もう10年以上それでしょ?
正直、もう嫌なんじゃない?」
「もう慣れたけれど…、そうだね。
さすがにそろそろ潮時かとも思うよ」
「だろ?いっそこのまま騎士団に入っちゃえよ。
お前が学校卒業する時、騎士団に入らないって聞いて、団長たちはかなりショックだったみたいだぜ?」
「う〜ん…、そういう選択もありなのかな」
そこまで聞いて、俺は踵を返した。
超ショックだったからだ。
そりゃ、俺が中に入って優しくなったとして、元々嫌いだった人間に仕え続けるなんて嫌に決まってる。
前世では好みのイケメンどころか、男に相手にされなかったから、
カミュのようなイケメンの優男にお姫様扱いされたり、性行してもらったり、恋に落ちないわけがない。
たとえノンケでも、相手がカミュなら好きになってしまいかねないくらいのイケメンなのだ。
そりゃ、恋人くらい作って、結婚して、幸せになって欲しいという気持ちは嘘ではないけど…
でも、疎まれていたのだと思うと悲しくて仕方がない。
ベソベソと泣きながら屋敷に戻ると、鉢合わせた母親に「ラルフちゃん!!?」とめちゃくちゃ心配された。
まさか、カミュ相手に失恋したとは言えず、「ちょっとお腹が痛くて」と苦しい言い訳をして、とにかくこの後は休みをもらった。
前世だったら失恋如きで早退なんて許されざる行いだけれど、ここでの俺は第二王子だ。
布団にくるまってメソメソしていると、ドアがノックされた。
お母様かな?と思って無視をしていると、「ラルフ様?」と声をかけられた。
カミュの声だ…
正直今は会いたくない。
なおも無視を続けると「体調が悪いようでしたら、お医者様を呼びましょうか?」と訊かれた。
「いい。必要ない。
カミュももう、今日は休んでいい」
「…、ラルフ様、泣いておいでですか?」
ツカツカと足音が俺のすぐ近くまで来て、「失礼します」と布団を剥がれた。
心配そうな彼の双眼と目が合う。
「やはり!そんなに痛いのですか!?」
彼は慌てて踵を返そうとする。
まずい、失恋如きで医者を呼ばれてしまう!
「ち、違うんだ!
全然、そういうのじゃない」
カミュは「それなら一体…」と考え込み、「まさか!隣国の者に何かされたのですか!?」と言って、帯刀した剣の柄に手をかけ、「全員斬り殺す」と走り出す勢いだったので
「違う!!!」と大声を出した。
カミュはポカンとして「それならば、どうして」と俺に訊く。
「本当になんでもないんだ。
ただちょっと、悲しくなっただけ。
明日には治るから、カミュはもう自分のことをしてくれ」
「最近ラルフ様がおっしゃる『自分のこと』とはなんのことですか?
俺は生まれてこのかた、ラルフ様のことだけを考えて生きてきました。
俺がすべきことは全て、ラルフ様のことです」
カミュが冷たい目で俺を見返す。
こんなに怒っているラルフは、以前の記憶の中にすらない。
内心ではこんなに怒るほど、俺のことが嫌いだったんだろう。
当たり前だ。
俺だって、こき使ってきた職場の奴らは嫌いだ。
解放してあげるべきなのだろう。
カミュだって潮時だと言っていた。
「カミュ…、もう俺の付き人なんか辞めていいよ」
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