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第8話
準備期間中もみんな真面目に制作して、無事展示品もフォトスポットも完成した。紅葉の下で三日月に座って撮影できるように、フォトスポット班の女子がおすすめした自撮り棒も置いて、持ち出し禁止用にクッソダサい柔らかいバネも括り付けて……外に出して雨が降りそうになったり、上級生に破壊されそうになったり……いやぁ、本当大変だった……。
『それではこれより、第××回文化祭を開始します!』
そんなこんなで文化祭当日。歓声が上がり、ステージ公演が始まった。クラスの出席番号順で座れるよう椅子の配置はしてあるものの、生徒はほぼみんな仲のいい人と見ようと移動している。おれはこのままの位置でいいかなーと思ったが……一瞬片桐先輩の顔が頭に浮かんだ。
「朝倉大丈夫?肋骨痛い?」
「いや……大丈夫 」
あの人極度の飽き性なんだよな……。夏休みに映画を見に行った時も、アクション映画なのに冒頭で飽きて寝てたし……。まあおれが気にすることじゃないんだけど。それでもやっぱり気になるから昼休みに声をかけに行くことにして、隣の席に来た友人と一緒に仲のいい軽音部の発表を楽しむことにした。
+
軽音部、落語研究部の公演、ダンス部の発表、それから有志発表が終わり昼休みへ。今日は食堂が休みのため、弁当を持ってきてない生徒は全員購買に買いに行くことになる。
「……うわ 」
「どしたん 」
「片桐先輩からめっちゃメッセージ来てた 」
『飽きた』やら『そっち行きたい』やら……何件も通知は来ていたはずなのに、スマホの画面を付けるまで全く気が付かなかった。
「付き合ってんの?」
「いや全く。そもそも同性だし 」
「ああ……。もう昼から片桐先輩と居れば?」
「今日はお前らと居たいからこっち居るよ 」
そう答えると後ろからドンッと衝撃が来た。後ろからぎゅうっと抱き締められる感覚がして「痛たたっ!」と叫ぶと腕が緩んだ。だいたい予想がつくが誰だろうと後ろを向くと……
「か……片桐先輩 」
拗ねたような表情で抱き付いてきていた。
「春樹借りてっていい?」
「どうぞどうぞ 」
昼休みには返してくださいね〜と言い、友人は去っていった。抱き付いたままだから他人の視線がちょこちょここちらに向いてくる……。
「……とりあえず、おれお弁当なんですけど……ご飯行きましょうよ 」
「行く 」
了承の返事の後、片桐先輩は俺を押して移動するように体育館の出口に向かった。
+
「春樹のクラス店番とかあんの?」
「無いですよ 」
「んじゃ明日一番にうちのクラス来いよ。俺朝イチのシフトだから 」
「いいですよ。友達と寄らせてもらいますね 」
明日も友達と一緒に回るため先輩と一緒には回れない。友達に言えば最初に行ってくれるだろう。
「後夜祭は予定ある?」
「そんなのあるんですか 」
「あるある。先生がキャンプファイヤー用意してそれ囲むんだけどさ……それ、春樹と一緒に見たい 」
すすっとテーブルの上に置いた左手に手が這わされ、くすぐったさでぞわりと鳥肌が立つ。「駄目?」と軽く首を傾げる仕草に慣れを感じて、何故だか……本当に何故だか少しずるいと思った。
「明日、おれに勝てたらいいですよ 」
「……オーケー。すっからかんにしてやるよ 」
約束を交わして昼食を終えた後、二人で体育館に戻った。
+++
そして迎えた次の日。学外のお客さんもいる中、おれは「これが終わったら客引きに行く」と言った片桐先輩とカードゲームをしていた。
「……ねえ、片桐先輩。バレなきゃイカサマしてもいいんですよ 」
「お前もしかして……!」
「してませんって。さっきから連発してるスリーカードもフラッシュも全部運ですよ 」
掛け金を増やし、手札を伏せる。……別に一緒に居たくないわけでもないし一度くらい負けてもいいんだが、なんかわざと負けるのはプライドが許さない。ため息をつき、相手をしてくれている片桐先輩が勝負に出ると、こちらも伏せたカードをめくった。
「…………は 」
「はい、ストレートフラッシュ。残念でしたね、フルハウス出たのに。……それでこれ、ディーラー側がすっからかんになったらどうなるんですか?」
すると片桐先輩はしばらく黙った末に、「…………出禁で 」と告げた。無論抗議したのだが聞き入れられず、時間をずらして改めて来たら『賭場荒らし出入り禁止』と張り紙をされて、受付している他の先輩にもやんわりとお断りされた……。
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