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第15話
冬休みに入っても日常は普段の休日とそんなに変わらない。朝起きるのが少し遅くなって、寒いから布団から出たくなくって……おかげでクリスマスイブにずれ込んだカラオケに遅刻しかけたが、なんとかギリギリ間に合った。ピアスはつけてる時間がなかったから全部持ってカラオケで付けた。
「朝倉って明日予定あんの?」
「うん。片桐先輩にクリパ呼ばれてる 」
「ほんと好かれてんな。今日はいいの?」
「今日は向こうもカラオケって言ってた 」
それでもやっぱり飽きてきてるらしく、ちょくちょくメッセージと……女子数人との自撮りが飛んできた。なんか知らないけど腹立つな。
「……朝倉何してんの?」
「あんま盛れてない自撮り送られてきたから送り返す目的で編集してる 」
「ようやるわ 」
呆れたように告げるクラスメイトに適当に返事をしながら編集を続ける。……ちょくちょく来るSNSの通知が鬱陶しくておやすみモードにした。
「ていうかそもそもの写真がカス寄りなんだよな……」
「口悪。朝倉ならどんなん撮るの?」
「あー……ライトがあの辺ならカメラこの辺にして……ちょっとごめん、肩抱く 」
「ん 」
隣にいるクラスメイトの肩を抱いて、送られてきたものと同じような構図で何枚か写真を撮る。……どれもちょこちょこ気に入らないところはあるが、さっき送られてきたやつよりは満足できる。
「んで影消して明るさ上げたり彩度いじってー……どう?」
「いいと思う 」
送ったれ送ったれと煽るクラスメイトに後押しされ、まず編集を終えた片桐先輩の写真を送り返した後にダメ出しをつける。『せめてこれくらい盛ってから送ってください』とさっき撮ったのを送ると、少しした後に片桐先輩から着信が入ってきた。歌っていたため無視していたけど数秒おきにずっとかかってくる。
「ちょっと出てくる 」
「はいよー 」
ため息をつき廊下でずっとかかってくる着信に出……ようとしたが、直前に切れたためメッセージを確認した。おやすみモードにしていて全然気付かなかったが色々来ている。
[は?]
[何これ]
[当てつけ?]
[なあ]
[春樹]
[返事して]
[怒ってる?]
[ごめん]
[ごめんなさい]
そこからずっと不在着信が続いている……。なんだこのメンヘラDMと思っていたらまた着信が入ってきた。
「もしもし 」
『……なんで出なかったんだよ 』
「歌ってたんですよ。ていうか……先輩こそなんですか、あのメンヘラDM 」
『……だってさぁ……俺にはああいうのしないくせに 』
「そもそも自撮り自体あんましないじゃないですか 」
『そうだけど……でもなんかやっぱモヤモヤする 』
別に付き合ってるわけでもないのに……。ため息をついてそう言おうとしたら、向こうが『明日』と口を開いた。
『来るんだよな、うち 』
「そりゃ誘われてますから。家知らないんで迎えに来てくださいね 」
『わかった 』
「あと……写真送ってきたのはそっちが先ですからね 」
『……そっか。春樹も妬いてたんだ 』
「は?」
片桐先輩は笑うように「また明日」と言い残し通話を切った。別に妬いてないなんて言おうとしてももう遅く、向こうが勘違いしたまま終わってしまった。
……明日のクリパ、何着て行こうか。ピアスも新しいやつ……フォロワーにクリスマスっぽいのを貰ったからそれを付けてもいい。
「朝倉、通話終わった?そろそろ時間だから出なきゃなんだけど 」
「あ、うん。今終わった 」
ぞろぞろクラスメイトが出てきた。はい、と神崎に荷物を渡され、おれもそれに付いていく。
「片桐先輩なんて?」
「明日のクリパの確認。から揚げと一緒に呼ばれてるから 」
「から揚げ要員かー 」
朝倉のやつ美味いもんなと褒められた。一回食べさせただけなのに美味いというのは覚えているらしく、少し嬉しくなる。
「朝倉くん今からどうするの?うちら今からファミレス行くけど 」
幹事に割り勘した料金を預けた後、女子グループから声をかけられた。一緒に行く?と誘われたが……
「帰る。明日の服決めてないし 」
「明日なんかあんの?デート?」
「片桐先輩がクリパ開くからって、から揚げ込みで呼ばれてる 」
「あーね 」
「やっぱデートじゃん 」
「他の先輩も来るから違うよ 」
ごめんな、と誘いを断って帰路に着く。
駅前だからか色々店もあって……ドラッグストアの店先に大量陳列されたリップクリームが目に入り、冬休みに入るまでしょっちゅうキスをしていたのを思い出した。
……解散したらするのかな、キス。
……するんだろうな。そういう関係……キスフレになってるし、おれもなんだかんだでキス自体に抵抗はなくなってきてる。
唇を指でなぞるとカサついていた。流石にこんな状態でキスはしたくない……なんて考えて、軽く首を振る。別に片桐先輩のためじゃないし……なんて言い訳しながら、一番ポピュラーな緑色のリップクリームを手に取った。
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