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第17話
片桐先輩の部屋は思っていたよりも殺風景で、教科書が平積みにされた勉強机と大きめのベッド以外に特筆すべきものは無い。
「久々に誰か部屋に上げたわ 」
「友達居ないんですか?」
「やる相手いなかったって意味で言ってんだよ 」
ベッドに下ろされ、背中から服を捲られて脱がされれば片桐先輩はそのまま寝転ぶようにこちらに覆い被さる。キスで頭がぼんやりして気持ちいいが、手首をシーツに縫い付けられるように押さえられて少し痛い。
「先輩、手痛い……」
言えばすぐ掴んだ手を緩めてくれたが、またすぐに強く掴まれる。腕も気になるが押し付けられる腰にも意識が向き、二回目以降はもう言うのは諦めた。
気付けば手首を握っていた片桐先輩の手はこちらの下腹部に伸び、半勃ちのそこに手を這わせて何度も擦り上げる。いつも『気持ち悪い』と思って触れなくなるそこがずっと触られていて腹に力が入った。
……なんか流されてたけど今からするんだと理解すると、昔のことを思い出して一気に頭まで冷えた。
「……今日は挿れないから 」
「……そう、ですか 」
「でも、太ももと腹だけ使わせて 」
「あ、待っ……」
ズボンも下着ごと脱がされ雑に放り投げられる。顕になった下半身にぴったりと片桐先輩の男茎が重ねられ、大きさの違うそれに心臓が跳ねた。これが……いつか入る……?
「大丈夫、痛いことしねえから 」
掴まれた足に口付けられ、ぴったりと膝を合わせられる。おれの足に挟まれたそれが出入りする度にこちらの男茎と擦れ合って「んっ」と女のような声が出た。思わず口を押さえても鼻からずっと漏れてくる。
それでも足りない。ずっと触れられるのを中断されていたそこも、ぎゅっと握られたいと思ってしまう。ぎゅうっとおれの太ももに圧迫されて、一人で気持ちよくなってる先輩がずるい。
「……ふふ、可愛い。腰動いてる 」
ぐいっと腕を引かれて体が起き上がった。ぴったり閉じられていた足は割り開かれ、片桐先輩の足の上におれが座る形になる。膝をつけて軽く浮く形になると「座っていいから」と肩を押さえられた。
「春樹、いつもどうやってしてんの?どこをどうやって触られたら気持ちいいか、見せて 」
「……わからないです 」
「わかんねえことないだろ。今見てんの俺だけだから……ほら、早く 」
「んっ……そうじゃなくて、その……本当に、ここ数年してなくて 」
「は?……え?処理どうしてんの?」
「途中で気持ち悪くなるから最後までできなくて、だから……なんか、夢精してることが多くて……あの、片桐先輩?」
片桐先輩は少し考えるような表情になったが、すぐにこちらの肩を抱いて唇を吸った。一瞬触れるだけのキスでも目は瞑ってしまう。そのままもう片方の手で二人の男茎を握り込んでゆっくりと動かす。
「あ……っ 」
「気持ち悪いって、どんな感じに?吐きそう?」
「そう、っじゃ、なくて……背中がゾワゾワ、して……なんか、嫌だって 」
「あー大丈夫、それ気持ちいいって感覚だから。言ってみ、『気持ちいい』って 」
上下に手を動かして男茎が圧迫されると、ゾワゾワと上り詰めるように腹の奥が熱くなる。
「春樹、ほら 」
自分のじゃない手で触れられる感覚と片桐先輩の男茎の重さと、自分じゃない人間の熱。理解しようとすればするほど頭の中と背中がゾワゾワする。ちゅ、と何度も唇や首筋にキスを落とされ、その感覚がどんどん強くなってきた。
「……気持ち、いい 」
「もう一回 」
「気持ちいい……っ、から、先輩、も……っ、やめて……」
「気持ちいいな、一回イッとこうな 」
先走りで滑りが良くなり、ぐちゅぐちゅと音を立てて男茎同士が擦れ合う。手首を掴んで止めようとしても、逆に手を掴まれて一緒に擦り上げさせられる。
「口開けて 」
「んっ……ん、はぁ、あ、あんっ……」
唇が重なり、舌も触れ合って口の中で声が反響する。脳が溶けるようにぼうっとしてるのに触れられている男茎は電流が走っているように敏感で、時折口が離れた時に「可愛い」や「好き」と言われ頭がパチパチする。気持ち悪いはずなのに、もっと欲しいと求めてしまう。
「っあ、あ、ッ……せんぱ、かたぎり…せんぱいっ……も、だめ、だめっ、だから……」
「イキそう?いいよ、気持ちいいって思いながら、イッてみような 」
唇を吸われる度に、ぎゅっと男茎を握られ擦り上げられる度にパチパチと弾ける感覚が強くなる。もう少し、もう少しだけこの感覚が欲しい。
「やだ、ぁ、あっ…ぁ、むり、むりっ、せんぱい、せんっ……!」
ビクッと身体が大きく跳ねて身体から力が抜ける。掴まれた手に液体がかかる感覚に不快感を覚えた。片桐先輩はこちらの手を掴む手と反対の手で頭を撫でて「いい子」と耳元で囁いた。視線が合い、唇が重なる。……手の中で片桐先輩の男茎が膨らんだような気がしたが、流石にもう無理。何も考えたくなくて気にしないことにした。肩を引き寄せぎゅっと抱きしめられ、ぐりっと腰が押し付けられて……急に、さっきまでの比じゃないほどの気持ち悪さが襲ってきた。吐くほどではないにしても熱に浮かされていた頭は冷え切って、片桐先輩が、裏アカのDMでシコったと報告してくるフォロワーと同じに思えてしまう。顔が見えなくてよかった。今、自分がどんな顔をしているかなんて考えたくもない。
「あ〜……挿れたい……。春樹、指一本……中指だけ挿れていい?ほんと、今日は挿れんのそれだけにするから 」
「……好きに、したら……?」
冷えた頭とは裏腹に熱い息の中、ベッドに仰向けに寝かせられる。片桐先輩はヘッドボードに手を伸ばして何かを取った後、開封して……ここからじゃあよく見えない。何してるんだろうと考えていると足が体の方に押し上げられ……
「ひっ!?」
ぴちゃりと冷えた何かが窄まりをほぐすようにそこに触れ、ゆっくり押し入ってきた。
「春樹、力抜いて 」
「無理、何、何して……!?」
「指挿れてる。痛くしないから 」
恐怖で体が強張る。片桐先輩のことは信頼しているし痛くしないとは言ってるけど、それでも怖いものは怖い。口を広げるようにぐにぐに周りを押すだけで奥に入っては来ず、入れてもほんの少しで……なのに、普段出すしかない場所にずっと異物が挿さっていてそれがまだ恐怖を底上げしてくる。
それでもじっとしてれば終わるはず。満足したら抜くだろうし、そもそも自分だってこうなるのを予想して『いい』と言った。だから、無理やりされてるわけでもないのに、昔みたいに無理だと泣くなんて筋が通らない。
「……やっぱいいわ。ごめんな、ありがとう 」
傷つけないようにか、つま先くらいしか入っていないだろうにゆっくり抜かれるそれに反射的に尻に力が入る。指を抜いて、「ちょっとトイレ」と部屋から出ようとする先輩の服を掴んで引き止めた。
「……何?」
「なんで、途中でやめるんですか 」
「怖がってるから。流石に無理やりする趣味ねえよ」
「別に怖がってませんけど 」
「んじゃ俺が萎えたってことでいいわ。離して 」
「嫌です 」
指を一本一本離させる側からまた握っていく。片手の指全てで握った状態になったことで片桐先輩は諦めたのか、ごろんとおれの横に寝転んで、ティッシュを取って腹についたおれの体液を拭い取った。
「なんで怖くないって嘘付くんだよ 」
「……本当に怖くありませんけど?」
「顔に出てんぞ。お前怖い時表情固まるんだよ 」
「え、そんなに……?」
ぎゅっと抱きしめられ、とんとんと頭から背中を撫でられると、安心感が出来たからか手の震えが止まった。
……触れられれば、この人になら素直に『怖かった』と告げてもいいんじゃないかと思えてくる。深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。
「…………あの、やっぱりさっきの、ちょっと怖かったです 」
「そっか 」
「だから……怖くないように、触れててください。こうやって、指絡めてぎゅって……そうしたら、怖くないかも 」
自分から片桐先輩の手を掴んで指を絡め、じっとその手を見つめた。体格にそんなに違いはないのに、手や下腹部など細かいパーツは片桐先輩の方が大きい。不思議だなぁと思いながらにぎにぎしていると、肩を抱き寄せてキスをされた。
「んっ……」
何度も口付けられて、唇を喰むように挟まれたり舌で唇を舐められる。腰を抱える手はそのまま滑り、再度尾てい骨のあたりに手が這わされた。
「本当に大丈夫?」
「ん……平気、かも 」
まだ少し怖いが、さっきより怖くない。片桐先輩は一旦尻から手を離して、再度ヘッドボードから何かを取り出した。
「何ですかそれ 」
「ゴム。潤滑ジェルついてるやつ 」
口で袋を破り、繋いでいない方の指に嵌めて再度腰を抱える。さっきよりも力が入っていないからか、そこは簡単に片桐先輩の指を受け入れた。
「あ……っ 」
中をゆっくりと擦り上げるように抽送を繰り返し、軽く曲げられた関節が出入りする度に背中がゾワゾワと粟立って腹の奥が熱を持った。怖いのにもっと欲しいと、さっきと同じように欲が出てくる。紛らわせるように握った手に頬擦りをすると片桐先輩は息を呑んだ。
「お前本当……」
「え、何……?」
「何でも。手もいいけど、こっちも握って 」
一旦組んだ手が離され、空いた手を下腹部に伸ばされる。さっきから散々握らされていたそれを再度握り込んで、なんとなく、後ろをいじる指の動きに合わせて動かした。
「ん…っ、そう、そう……偉いな、春樹……」
「んっ……」
ちゅ、と触れるだけのキスでも、ただでさえ欲しくなってる浅ましい体には足りない。にちゅにちゅと音を立てるそれに半勃ちの自分のものも合わせて擦り上げる。
「あ……っやば、これ、っ……」
「ん、うん……気持ちいいな……」
余裕そうにしている片桐先輩が羨ましくて握る力を強める。後孔に入る指がもう一本増やされ、速度も上がってまた頭がパチパチと弾けた。
「あ"っ、やだ、や、はやいっ……」
「早くしてんの、そっちもだろ……んっ…」
「だ、め、だめだめだめっ…!せんぱ、せんぱいっ……」
「春樹、名前っ……名前、呼んで。『蒼真』って……っん……俺の名前呼んで 」
「はぁ、あっ、そ、うまっ……蒼真、もっ…だめ、だめ、そうま、ぁ、ッ……!」
「……っ、ハル……ッ……!」
ぎゅ、と体に力が入って、ガクッと大きく体が跳ねた。体液の生温かい温度も気にならないほど頭がふわふわしている。後孔から指を引き抜かれる時に「んっ」と鼻から声が漏れた。散々指を出し入れされていたそこはヒクヒクと収縮を繰り返している感覚がする。
汗ばんで額に張り付いた髪を分けて、片桐先輩はそこにキスを落とす。軽く上を向くと目が合って、自然と唇同士が引き寄せられた。
+
『そういう』ことをした後、風呂まで運ばれて丁寧に体を洗われた。途中大丈夫か何度か聞かれたが、疲れで適当に返事をしてしまった。髪を乾かされた後はソファに座らされ、頭を撫でて「ちょっと待ってな」と放置された。寂しい気持ちはあるが、別に付き合ってるわけでもない。文句を言える関係じゃないから何も言わず、肘置きに頭を預けてうとうとと微睡む。
……結局指2本入れられたな。前の時も『何もしない』って言ったのに結局キスされたな。なんか余計なこと覚えさせられてる気がする……
なんて不満を浮かべていると、一瞬思考が飛んだ。本格的に寝そうになっている。起き上がろうとしたが心地よい気だるさに抗えず、そのまま夢と現の間でぼーっとしていると片桐先輩が戻ってきた。
「春樹寝ちゃった?」
「ねて、ねて、ねて……?ねて、ない……」
「寝てんじゃん 」
片桐先輩は吹き出すように笑い、起きあがろうとするおれを抱き上げて移動を始めた。どこに行くんだろうと回らない頭で考えていると部屋のベッドに転がされ、優しく布団をかけられてトントンと寝かしつけられる。
「かえる……」
「起きてから帰ろうな 」
そのまま頭を撫でられ、瞼がだんだん重くなっていく。頭もぼーっとして夢の世界に行く直前、「愛してる」と聞こえた気がした。
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