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第20話
実家にて正月を迎え、初詣も行ったが意外にも同じ町内の元彼と出会うことはなかった。たまたまなのか、鉢合わせしないように向こうも気をつけていたのかはわからないがそれだけでも心は休まった。
正月三日、帰省も最終日。荷物をまとめて玄関で靴を履き替えていると、母が「これ持っときなさい」とカイロをポケットに捩じ込んできた。
「忘れ物無い?」
「大丈夫だってば。母さんおれが家出る時毎回聞いてくるけど、もうそこまで子供じゃないよ 」
「15はまだガキでしょ 」
「姉ちゃん……おれ来月16になるんだけど 」
「あんま変わんないわよ 」
姉と言い合いをしながら車に乗り、駅に連れて行ってもらう。道中コンビニでお茶を買ったり道を間違えたりして、車で15分くらいかかる駅についたのは家を出てから30分経った頃だった。
「じゃあ春樹、なんかあったら連絡しなさいね 」
「わかった。……あのさ、姉ちゃん達ってちゃんと結婚するんだよね?」
「するに決まってんでしょ。もう色々詰めたから、あとは招待状とドレス決めるぐらい。それが何?」
「……なんでもない 」
「なんかあんでしょ。言いな?」
ほら、と姉は促すが、なかなか口に出せない。『また同性の恋人を作っても大丈夫?』なんて肉親相手に……いや、肉親相手だからこそ言いにくい。姉ちゃん達が結婚するなら親は孫の顔を見れないなんてことはないが……
「……お姉ちゃんがお嫁に行くから寂しくなっちゃった?」
「何自惚れてんの?」
なんて返すと車の窓からアイアンクローを受けた。「痛たたたた!ごめん!痛いです!ごめんなさい痛いです!」と止めてもらい、「本当何かあったら言いなさいよー」と残して姉は帰っていった。
おれもさっさと帰ろ……。切符を買ってホームに向かい、なんとなくスマホを見る。画面に表示されたSNSの通知の中に、片桐先輩からのメッセージ通知を見つけてとっても嬉しくなってしまった。
+
乗り換えた電車に揺られて一時間近く。『もう少しでつきます』と送って窓の外を眺めると、こっちの方は雪が降っていた。寒そうだなぁと思いながらダウンジャケットの前をしっかり閉じて寒さに備える。こんなに閉めてもマフラーしてないから首は寒いだろうなぁと考えつつ、目的の最寄り駅に到着したため電車を降りた。
「寒っむ……」
降りて感じた肌を刺す気温に思わず首をすくめた。風に吹かれて雪が当たり、そこからも冷えてくる。やや早足で吹きさらしのホームから改札に移動すると、女の子に声をかけられている片桐先輩を見つけた。
「あ、春樹、こっち!」
おれを見つけた片桐先輩は手を上げて『早く来てくれ』と顔で訴えてきている。放置するのも可哀想だったため、少し早足で切符を通して合流した。
「片桐先輩、あけましておめでとうございます 」
「あけおめ。なんか痩せた?」
「短期間でそんな変わりませんよ。それより、ラーメン行くんでしょう?早く行きましょうよ 」
お腹減っちゃった〜と言いながらさり気なく手をつなぎ、その場を移動する。一瞬片桐先輩は驚いたような表情を浮かべたが、後ろで女の子が残念そうな反応をしたため握り返してきた。
「助かった 」
「餃子もつけてくださいね 」
こそっとサイドメニューの要求もして、手を繋いだままラーメン屋に移動した。
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「醤油こってり。麺大盛りで。それと餃子ください 」
「おれ塩ラーメンの半玉、麺硬めで煮卵ともやしトッピングで 」
「半玉でいいの?」
「餃子あるんでそんなに食べられないです 」
「そっか 」
注文を通してもらい、待ってる間何を話そうかと考えたが、ふとさっきの光景が気になった。
「珍しいですね、片桐先輩が女の人をあしらえないの 」
「んー、ちょっと調子悪くて 」
「えっ。無理して迎えに来なくてよかったのに…… 」
「体調じゃねえよ。そっちは大丈夫。調子悪かったのは……まあ、春樹に会えなかったから 」
「先輩本当におれのこと好きですね 」
「うん、大好き 」
真っ直ぐ見つめられて言われてしまうと少し照れる。「またまた〜」なんて言って冗談として流そうかと思ったが、明らかに冗談なんて雰囲気じゃない。
「だからしばらく会えないと調子出ねえし、泣いてるって知ったらちゃんと慰めたい。……会えない間もずっと春樹のこと考えてた。今日家まで送ったらさ、朝まで一緒に居ていい?」
テーブルの上に置いていた手に手を重ねられ、軽く握りこまれる。しばらく何も言えずにいたら「駄目?」と問いかけられ……「うん」と小さく返事するので精一杯だった。
この後に来たラーメンの味は、よくわからなかった。
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ラーメン屋から出て、家に帰る途中に会話は無かった。
……完全に無かったわけではないが正月中もメッセージで話していたため、二、三言で終わってしまうような話しかできなかった。
……それにおれが、今からのことを考えてまともに返事ができるような心境でもなかった。
「あのさ、春樹……俺朝まで居たいって言ったけど……」
「けど……なんですか?」
「……手出していい?」
「えっ、出さないの?」
……なんて反射的に言ってしまうと、片桐先輩は「えっ?」と驚いた返事をして立ち止まった。
「……いや、他意はないんですけど…… 」
「……他意はないって、お前わかってて言ってんの?」
「なんですかそれ…… 」
「だってお前だいぶバカだし…… 」
「帰ってくれてもいいんですよ 」
少し腹が立ったため意地悪なことを言ってみると、「ごめんって〜」と急にベタベタしてきた。
「もう家の前きてんじゃん。ここまで来て追い返すのひどくね?」
「家まで送るって話だったし、ここまででもおれは問題ないんですけど 」
そう言いながら鍵を開けて家の中に入る。片桐先輩は何か言いたげに玄関の前に立っているが……
「そこに立ったままだと邪魔なんですけど。……上がらないんですか?」
なんて問いかけると、唇に熱が触れると同時にドアの閉まる音が耳に届いた。
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