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第21話
ベッドの上で指が三本、ジェルのせいでぐちぐちと粘質な音を立てて出入りする。片足を肩に引っ掛けられて、全部見られているような気がすると余計に指を締め付け、閉じた口から声が漏れた。
「……春樹 」
「っん、っ…なに……」
「ここ、自分で触ってた?一週間以上会ってねえのに……なんで三本も入んの?」
にゅぷ……と音を立てて引き抜かれながら問われ、無視して顔ごと視線を逸らした。「こっち向けって」と顎を掴まれ戻されたが。
「で、どうなの 」
「……関係、ありますか…あっ……!」
「んーん。気になるだけ。入れたの指だけ?」
指が二本に減り、先程とは違って、ぎゅー……と押さえつけるように指を押し付けてくる。触れられたそこが、こりゅっと腹の中で何かが動く度に電気が走るようで、女でもないのに腹の中をいじられ気をやりそうになった。
「かーわい……ほら、歯痛めるから口開けて 」
ちゅ、と口付けされて反射的に口が開く。その開いた口から舌が入り込み、滑らせるように舌の上をくすぐる。口の中で声を反響させながら溺れるような感覚にぼうっとしていると、一瞬強く舌を吸われ……ちゅぷ……と音を立てて唇が離れると、後孔を犯していた指もゆっくり引き抜かれた。
「っん……」
思わず追いかけるように舌を出してしまったが、片桐先輩が唾を飲む音が聞こえて慌てて口の中にしまった。
「何、口してほしい?」
「……別に……ちょっと、はみ出しただけです 」
「本当素直じゃねえよな、春樹って 」
「何が、んっ……」
ちゅ、ちゅ、と啄むように何度も唇を吸われ、息継ぎができなくて頭がぼうっとしてくる。それでも唇に触れる熱と酸欠になる感覚が心地よくて、腕が自然と片桐先輩の頭の後ろに伸びた。
「んっ……」
片桐先輩の声が口の中で響く。キスしたまま尻に固いものが押し付けられ、さっきまで指を入れていたそこが欲しがるように蠢く。
「……は、待って春樹、ゴム付けるから……」
「いい、からっ……」
「腹壊すから……ちょっ、足離せって 」
持ち上げられていない方の足を腰に引っ掛け、ぐぐぐと引き寄せるがやはり無駄らしく、片桐先輩はおれから離れてゴムを取りにベッドの下のバッグに手を伸ばした。
「……おれ妊娠しませんけど 」
「腹壊すから駄目。それに、終わった後出さないようにしながら風呂まで歩けんの?」
そう問いかけられて何も言えなかった。前だって後戯が終わると眠くなってしまったし。
「だし、ゴム付けんのはエチケットだから。理解した?」
「…………まあ 」
なら外出しにしたらいいんじゃないかとも思ったが、それもそれで『そこまで生でしたいの?』など言われるかもしれない。いや、絶対言われる。
なんて考えていると準備が整ったのか、さっき持ち上げられた方とは逆の足を肩にかけられ、尻にそれが押し当てられた。期待でか、未知の感覚に対する恐怖か、心臓がさっきよりもうるさく感じる。
「気分悪いとか、足痛いとか大丈夫?」
「平気……あの 」
「やっぱ無理?」
「じゃなくて……下の名前、呼んだ方が……?」
「……そりゃ呼んでほしいけど 」
ぐ、と押し付けられたそれが徐々に中に入ってくる。さっき慣らしたそこは片桐先輩の指が入っていた分スムーズに……行くかと思われたが……
「ん、ぐっ……」
「春樹、力抜ける?」
ふる、と軽く首を振る。やはり形状が違うためかすんなりと飲み込めない。そもそも本来入れる器官でもないのだからいきなり入るわけでもないんだ。
「んじゃ、逆に力入れて。ちょっと苦しいけど……我慢な 」
「あ、待っ…ッン…〜〜ッ……!」
ずぷぷ、と押し込まれ、一瞬腰が引かれて体が跳ねる。それを何度か繰り返されて、片桐先輩はぐー……っと押さえつけるようにこちらに体重をかけてきた。
「は〜……全部入った……」
満足そうな声を出した後、ちゅ、ちゅ、と口付けてくる。大丈夫?とくすぐるようにこちらの頬を撫でてくる手を取り、ぎゅっと握り込んだ。
「せん、ぱい……動いて、いいから……」
「そう?」
「ていうか……ずっとそこ、居られると……」
痛いんですけど、と言いかけたが唇が塞がれ、そこから先は言えなかった。
……長い。五秒経ってもまだ口を離してくれず、ずっと舌を差し込まれ、口を引っ付けたままで目を開けられない。
「ん……っう!?」
口付けたまま引き抜かれ、奥をとちゅとちゅとノックされる。突かれる感覚よりも引き抜かれる感覚の方が気持ちよくて、奥にぶつかった直後から背中がゾクゾクと震えた。
「う、っあ、あっ……!あ…っや、それ……むり、むりぃっ…!」
「気のせい……ちょっと、早くすんな 」
「はや…っや!?やぁ、っあ、あっ!」
足を両方肩に担がれ腰を打ち付けられる。先程より浮いた腰で、角度と速度の変わったピストンに声が抑えられない。
「あ"…っあ!?そこ、ッだめ、だめって!」
「駄目って割に…っん、めっちゃ、締め付けてる 」
「ちが、ッン、も、イッ…っ、から、あ、あっ……!」
飽きないのか何度も口付けて、体勢が深くなると先程指で弄られていた部分がこりゅっと動いた。その度に奥から片桐先輩のものを締め付けて、余計に『気持ちいい』という感覚に溺れる。
「や、だめ、そうま、だめって…」
「『駄目』じゃなくて、『気持ちいい』だろ……ほら、言えって 」
「気持ち、い、イッ…ッ〜〜……!」
「っ……キツ…っ…」
ぱちぱちと頭の中で白い光が弾けるような感覚の中、『気持ちいい』と言わせられると余計にその感覚が整理できて、ほんの一瞬全身がふわっと浮くような感覚に陥り、全身に電流が走ったかのようにガクッと大きく震えた。
「……!?あ、っあ!?いや、やだっ!おれ今イッた!イッた、から、あっ!」
それでも片桐先輩は動くのを止めずに、たまに唇を重ねてずっと覆い被さり腰をぶつけてくる。ぱんぱんと肉がぶつかる音と、ずっと『気持ちいい』を与えられて止まらないおれの情けない声と、片桐先輩が「ハル」とおれのことを呼ぶ声が、終わってからも酷く耳に残った。
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何度もイカされてからシャワーを浴びせてもらい、二人でベッドの中へ。冬だからさっきまでまぐわって温かかった布団はすぐに冷えてしまっていて、暖を取るために寄り添った。自分の家のボディソープの匂いと片桐先輩のにおいが混ざって、どうも心臓が落ち着かない。
「……先輩 」
「ん?」
「おれ、ずっとこういうことするの、気持ち悪いって思ってて……自分でした時も、気持ち悪くて途中で萎えてたんですけど……」
事後のせいか眠くて頭がぼんやりする。……なんか余計なことまで言いそうだなぁと思いながら、「ごめん」と謝罪しかけた言葉を遮って言葉を続けた。
「片桐先輩としてる時、気持ち悪くなくて 」
「……うん。どう思った?」
「……気持ち、よかった 」
「……よかった 」
安心したような声の後に抱き締められ、チュッと唇が吸われる。反射的に閉じて暗くなった視界で、そのまま夢の世界に向かった。
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