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第24話
今週が終わるまで残り二日となった。
片桐先輩はやっぱり寂しいからか、学校で会えばずっとおれに構ってきた。
だから登校三日目の今日、放課後になってもクラスに来ないのが気になった。修学旅行近いしなぁ、仕方ないよなぁと思ったが、どことなく寂しい。
「朝倉、今日って暇?」
「ごめん、今日もちょっと 」
ごめんな、とクラスメイトからの誘いを断り、荷物を持って二年のフロアへ。念のため下駄箱を覗いたがまだ帰っている様子はなかった。
まあ、たまには?おれから先輩に会いに行ってもいいでしょ。
なんて考えながら片桐先輩の教室に向かう。頭の中で、おれに会えてニコニコする片桐先輩の姿が浮かんでこちらも嬉しくなった。
「———…ーね、『春樹くん』だっけ?」
教室を覗く直前に知らない先輩の声で名前が聞こえなんとなく隠れてしまった。……こっそり聞き耳を立ててみる。
「いくらそっちじゃないからって、あそこまで片桐に対して頑ななのも珍しくね?あいつスペック高いのに 」
「わかる。わかるけど、なんかクリスマスも家呼ばれて行ったっぽいぞ 」
「ああー、んじゃとうとうか……」
謎に残念がる声の後、その声の主は話を続けた。
「春樹くんも可哀想にな。片桐の歴代彼女って最大何日だっけ?」
「一ヶ月。彼氏も含めたらもうちょい長くなるけど、どっちにしろ半月くらいしたらなんか惰性で付き合ってる感あったじゃん?」
「確かになぁ。一年飽きずに構ってたけどいつまで続くか……」
「まあでもほら、片桐たまーにゲーム感覚で付き合うことあるじゃん。もしかしたら春樹くんのことも落とそうとして…… 」
「一年かけて?らしくねー 」
ゲラゲラ笑いながら話すそれを耳にして一気に胸の中が冷たくなった。あんなにしょっちゅう、おれが全然反応を返さないのに飽きずに構っていたのも、好きって言ってくれたのも、そういうことをする時に気遣ってくれたのも……
「あれ、春樹?」
背後から一番聞きたくない人の声を聞いて心臓が跳ねた。ばっとそちらを向いて、嬉しそうな表情の相手……片桐先輩を確認した。
「なんで二年のフロア来てんの?もしかして、俺のこと迎えに来てくれた?」
「嬉し〜」とおれの想像通りにニコニコ笑う片桐先輩。この表情の裏にも何かあるかもしれない。……そう思うと関わりたくなくなってきた。
「……別に 」
いつものようにそっけない返事をして、片桐先輩を無視して階段の方へ。
「なあ、帰りどっか寄る?それとも一旦空き教室挟む?」
「……なら、空き教室 」
関わりたくないのに、離れるのは嫌だ。
さっき『らしくねー』と言われていたし、ゲームの攻略感覚でおれのことを落とそうとしているとしてもこんなに長く時間をかけるわけがない。だって飽き性なんだもん、この先輩。
……それでも否定しきるのが難しい。そんなわけないと否定して、いざこちらから告白して向こうが冷めたら……例えば「ごめん、そういうつもりなかったから……」なんて言われたら立ち直れる自信がない。
「……春樹、なんかあった?」
この問いかけすらも怪しんでしまう。本当、なんであんなことに聞き耳を立ててしまったんだろう。ぐるぐると嫌な気持ちが胸の中で渦を巻いて気持ち悪い。
「なんでもない 」
そう、なんでもないんだ。
本当に片桐先輩とはなんでもない関係だ。だからここから先に進まないほうがいい。この気持ちには……『片桐先輩が好きだ』という気持ちには、今は気付かなかったことにしよう。言っても言わなくても自分が辛いだけなんだから。
「なんかあったら聞くから、あんま思い詰めんなよ 」
そう心配そうに声をかけながら片桐先輩は横に並んで歩いてくる。とん、とぶつかった手がさりげなく繋がれて……自分もそれをそっと握り返した。
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