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第25話
二年生が修学旅行に行った。行き先はハワイ。時差もあって一週間の不在で、多分時間も合わないから通話もできない。……そもそも文章の交換しかしないけど。
「朝倉大丈夫?」
「何が?」
「片桐先輩が居ないから。寂しいんじゃねえの?」
神崎の問いかけに「あー……」と煮え切らない返事をしてしまった。
「まあ放課後暇になるなとは思ってるけど……」
「バイトとかもしてないしな。なんでうちの学校、長期休暇の時以外は申請すら出せないんだろ……。先輩とか無断でやってるって言ってるし……なー朝倉、なんか先輩のツテとかない?」
「あるわけないよ。諦めな 」
金がないと嘆く神崎。風邪引いた安達がいないからかやたらダル絡みしてくる。でもこれはこれで、おれも寂しさが紛れるから助かる。
「配信者って稼げんのかな 」
「あーどうだろ。登録者数次第じゃない?」
「だよなぁ……。やっぱゼロからってむずいよな 」
「だし、どういう配信するかも考えた方がいいよ。歌とかゲームとか大まかにジャンル絞るにしても、ある程度方向性定めないと離れてく人多いから 」
「なんか詳しくね?」
「ああうん、元配信者の友達がいて……」
伸び悩んだためかエロ売りにシフトして、そのまま裏アカウントで繋がって話すようになった数少ない相互だ。『オフ会しない?』と誘われているが、金がないと言い訳をして断っている。
「ふーん 」
神崎は興味なさげに爪をいじっている。人に相談しておいてなんだこいつ……
「……朝倉、そういうイライラした顔するんだ 」
「え、なんて?」
「俺に興味ないんだと思ってた 」
「なんでさ…… 」
友達だろとため息をつきながら言うと「安達のついでで仲良くされてんのかと思ってた」と返答して……なんだかお互い照れくさくなってしまって、その場は解散となった。
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放課後。スーパーで買い物をして、帰宅しても何もする気になれなかった。適当に料理を作って風呂を洗って……普段やってる片桐先輩との会話がなくなっただけで生活に張り合いがなくなる。別にあの人のために作ってるわけでもないのに……
「……なんか、すごい暇だな 」
夕飯にするにはまだ少し早く、好きな配信者も配信してないしアーカイブもだいぶ見尽くした。はー……とため息をついて、ふと最近裏アカに顔を出してないのを思い出す。案の定心配するリプライがちょこちょこ来ていた。
……久々だし投稿しようかなと考えて、仰向けのままゆっくり服を捲る。今日はピアスなしでいいか。乳首が見えるか見えないかの位置まで捲って……先だけ見えないように微調整して……
なんて集中しているとビデオ通話がかかってきた。思わず反射的に通話ボタンをタップしてしまう。その、インカメを自分に向けたまま。
『あ、はる』
「わーーっ!?!?」
思いっきりスマホを頭上に投げた。壁に当たってゴンッ!と音が鳴り、慌てて服を直して拾い上げる。電話の向こうでは『うるせえよ』と文句が聞こえてきた……。
「すみません、えーっと、ちょっと虫が出て……」
『いやいいけど……。……あのさ……今撮ろうとしてたやつって後で送ってもらっても……』
「は?」
『あっなんでもないでーす 』
片桐先輩は冗談ですという表情で撤回した。……大丈夫だ。まだギリギリエロい自撮りをしようと思っていたとしか思われてない。
今は向こうは夜中なのか、電話の向こうはベッドライトのみついているような景色で、片桐先輩はシーツを被って横になっている。寝る前なのかな。
「それで、なんですか?」
『顔見たくなってさ。元気?』
「元気ですよ。むしろ片桐先輩が居ない方が色々自由で楽しいです 」
『えっ嘘……』
ショックを受ける顔が可愛らしく思える。思わず吹き出して「嘘ですよ」と告げるとわかりやすいほどホッとした表情になった。
「それはさておき、なんでおれの顔なんて見たいんですか?」
『えー、それ言わせる?誰でもさぁ、しばらく会えてねえと恋人の顔って見たくなるだろ?』
「えっ?」
『え?』
…………恋人?聞き違いか?
「あの……おれ達別に付き合ってないですよね?」
『……えっ?』
「おれ告白の返事断ってるし、そもそも女の子の方が好きだし……もしもーし、片桐先輩?」
固まってしまった片桐先輩に何度も声をかけたが反応がない。一旦切った方がいいかなと考えた途端、『はああぁ!?』と電話の向こうで先輩が叫んだ。
『おまっ、あんな……あんなことしといて付き合ってねえって言えんの!?』
「だって片桐先輩誰とでもそういうことするし……夏休みだって元がついてるのに彼女さんと会ってたじゃないですか 」
『セフレと恋人は別だろ!?』
言い争う声の裏で『マジでうるさいって』やら『先生来るから』とか聞こえる……。
「とにかく切りますね 」
『駄目!駄目駄目駄目……!その辺の話ちゃんと……』
と言ったところで片桐先輩は黙った。周りの先輩も寝たふりをしているのか何も聞こえない。……なんとなく俺も黙った。
『……ちょっとごめん 』
片桐先輩は通話を切った。少し後にメッセージの通知が来たため確認する。
[ めっちゃ怒られた ]
[ 帰ったら反省文って ]
その後に悲しみのスタンプも届いた。まあ今回のことはおれも半分悪いし……なんと送ろうか悩んでいると、もう一通届いた。
[ 帰ったら話あるから ]
……この一言から漂う怒りを感じ、そっとメッセージアプリを閉じて自撮りを再開した。これで許してくれないかなぁと考えつつ本気のエロ自撮りを編集し、再度メッセージアプリを開く。
[ これで許してください ]
そう返信してから明るさと影だけ調節して、トリミングしてないさっきの構図の自撮りを送った。しかし先輩から返信はない。
……まあしゃーないか。
ため息をつき、念のためボディピアスを通して、別の構図での自撮りを撮ることにした。
その写真は構図のみ妥協したものだったが、それでもみんな褒めたりおシコり報告をくれた。……やっぱりこうなると片桐先輩からの返信も欲しくなる。P活のお誘いをしてくるアカウントをブロックしながら夕飯まで返信を待ったが、結局既読だけついて終わった……。
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