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第31話
今まで何度も片桐先輩と体を重ねている。キスした回数なんて数え切れないほどだ。毎回キスから入っているし、最中もキスすることが多いためか、何度も舌を吸われていると……
「……はは、勃ってる 」
すり、と手のひらでそれを撫でられ「うっさい……」とぼやいた。そのまままた唇が重なり、ぎゅうっと圧迫されてビクッと体が跳ねた。
「移動しようぜ 」
「移動って、どこに……」
「そこ 」
そこ、と親指で指した方には……
「トイレ……」
「そ。そのままで帰んの嫌だろ 」
「……で、でも、学校でするのは……」
「大丈夫だって。人少ないし意外とみんな見逃してくれるから 」
チュッと一度唇を吸われ、手を引かれる。それは見逃してるんじゃなくて声をかけられないだけじゃ……?と思ったが、流石に口には出せずに黙った。
「……やっぱ、ほんと無理?」
……その問いかけに、ゆっくりと、足を一歩踏み出した。
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トイレの個室に入った途端、体を壁に押し付けられてキスされた。冬場の冷たいプラスチックの温度が背中を覆って、高くなった体温が少し冷やされる気がした。
「んっ…ふ、っう……」
軽く口を開けて舌を受け入れる。何度も唾液を交換しながら服の裾から手を差し込まれ、片桐先輩の冷えた手が肌を撫でると冷たさで肌が粟立った。そのまま手はだんだん上のほうに登り……
「……ん、何これ……」
くいっと服の下の『何か』を引っ張られ、一気に頭が冷えた。
「……あー……っ、ちょっと、後ろ向いててもらえます……?」
「え、嫌。何付けてんの?」
「え、ちょっとほんと、やめて……」
くい、くいっともう何度か引っ張られ、つんとそこが硬くなる。ピリッと痛みが走って「痛っ」と言うと手を離してくれたが……何か確信めいたような表情をしている……
「見ていい?誰にも言わねえから 」
「…………駄目 」
「減るもんじゃないしいいだろ 」
なんて言いながらカーディガンとカッターシャツのボタンを外され肌が露わになる。一応手首を掴んで止めはしたが、焼け石に水にもならなかったようで呆気なく前を暴かれた。そうして片桐先輩が見たものは……
「へー……春樹ってここにも開けてんだ 」
両乳首から垂れる、やたらチャラチャラとチャームがついたピアス。昨日撮影の時につけたそれを、外すのを忘れたまま登校して……
「……恥ずかしいから、あんま、見ないでください……」
「じっくり見させてもらうわ。今日バレンタインだからつけて来たの?」
「寝る時外すの忘れて……っ、も、いいでしょ、ほんとっ……」
「その言い訳は無理あるだろ 」
ピアスのチャームを摘んで軽く引かれ、ピンッと乳首が少し伸びる。何度も引っ張られれ血が集まったそこはだんだんと硬くなり、ぐいっと押し潰されても指の下で存在を主張した。通っている金属のゴリッと擦れる感触に「んっ」と鼻から声が漏れる。
「エッロ……春樹乳首触られんのも好きなんだ 」
「ち、がっ……」
「でもほら、後ろ触ってる時の声出てる。……こんだけ気持ちいいなら、ここ触りながら奥突いたらどうなるんだろうな 」
片手でピアスを引っ張られ、腹に手が這わされながら耳元でそう囁かれれば頭の奥が沸騰する感覚に襲われる。何度も入り込まれ、『気持ちいい』と覚えさせられた腹の奥が欲しがるように切なくなった。
「ハル 」
腹を撫でた手が腰に回され、そんな状態で情事の時の呼び方をされれば浅ましくなった身体は素直に反応する。熱っぽくなった吐息が触れ合って、「後ろ向いて」と言われ素直に壁の方を向いた。
「今日素直じゃん 」
ちゅ、ちゅ、と耳にリップ音を受けながらベルトを外され、下着ごとスラックスが下された。ひんやりした空気が一瞬下半身を撫でたが、すぐに片桐先輩の手の温度に塗り替えられる。ピアスを摘んで乳首を引っ張られている間に準備は整ったのか、いつも入ってくる『それ』が尻に押し付けられた。
「ん、っ……」
「あぁ、あっ…!」
気温のせいか、学校でしているという背徳感のせいか、あるいは普段しない体勢のせいか。ずぷぷっといつもより時間をかけずに飲み込んだそれが酷く太く感じた。
「あー……立ちバック初めてだっけ?いつもより締め付けきつくて……」
「じ、っきょ、とか…いらないっ……」
「あーごめんごめん。実況とかじゃなくて 」
一瞬内臓ごと持っていくかのように引き抜かれたそれがすぐに狭まった腸を抉るように押し込まれる。でもその律動は一度きりだった。タンタンッと浅く抜き差しされて小刻みに奥を突かれ、いつもより声が出る間隔が短い。
「いつもみたいに深くしてたら声抑えらんねえだろうなって 」
「え……」
何が、と聞く直前に「やっと終わったぁ〜!」という声が聞こえてきた。その他に数人の足音。思わず奥歯を噛んで息を潜めた。
「マジで今日キツくなかった?」
「それな。大会近いからって気合い入れすぎ 」
「つか短距離ってフォームいじる以外どうすりゃいいんだろ 」
陸上部がここのトイレを使っているようで、思わず耳を立ててしまう。
走りを速くするなら最初からスパートかけるみたいに体重を前にかけて、ストロークを長くして……
など考えていると、
「っう…!?」
ぎゅっとピアスを引っ張られた。咄嗟に口を押さえて声を我慢したが、締め付けた男茎に意識が向いて一瞬頭の奥に白い光が弾けた。
「今なんか言った?」
「個室のやつが踏ん張ってんだろ 」
その軽口に陸上部がゲラゲラ笑った。もうどうでもいいから早く出て行ってくれ。
声を出せない状況なのに片桐先輩は腰を動かす。浅く抽送を続けるが、ずっと奥の気持ちいいところを攻められていてぞくぞくと頭の中が震える気がした。
「っふ、っ…ふ、ぅ、っう……」
「声出したらやばいもんな、俺はともかく……」
「う、っう……!?や、めっ……」
「やだよ。春樹も気持ちいいくせに 」
口に指が入り込み、舌を撫でられ唾液が片桐先輩の指を伝う。奥歯を噛んで声を堪えようにも指があって歯を立てられない。
「あうっ、う…!っん、っちょ、ほんとやめっ……」
「しー。学校でやってんのバレたくないだろ?」
「っ……」
学校という単語が蕩けそうな脳を引き締めてくる。なのに尻から伝わる気持ちよさはどんどん身体中に広がって、声を我慢しようとしても鼻から全部出そうになる。口を閉じ、ちゅうっと片桐先輩の指を吸うと声は幾分か抑えられるが、乳首から垂れたピアスを引っ張られると喉の奥で声になり損なった声が飛び出るようだった。
「指咥えさせて乳首いじって……あー、手足りねえ……。絶対今春樹の顔蕩けてんのに、見たいのに見れねえし……」
カクカクと足が震える。壁に手をついて姿勢を保とうとするも腕に力が入らなくて、腰だけ突き出すような体勢になって逆に恥ずかしくなってきた。
なのにまだ終わる気配はない。やはり片桐先輩も物足りないのか一瞬だけストロークを長くすることはあっても、ずっと浅くしか抽送しない。それがもどかしくて、イイところに当てようとして腰が揺れているのも自分で気がついて……
「っあ、あっ…そ、ま、そうま…」
口を開き、片桐先輩の名前を呼ぶ。なんとなく、片桐先輩のが自分の中で膨らんだ気がした。
「奥…っ、おく、強くして……」
「……あー……本当?いいんだ 」
一瞬大きくそれが引き抜き、その感覚に背筋がざわつく。その一瞬で『来る』と期待した体に———
「っお"……ッ!?」
身体が大きく跳ね、目の前が普段の比じゃないほどチカチカする。なのに腹や太腿が汚れる感覚はなくて、その一瞬の喘ぎの後に何度も打ち付けられる衝撃が整えようとした思考を狂わせる。
「っあ"、なに…っや!やだ、やだっ、そうま、これ、わかんなっ…!」
「はは、ずっとイッてる。俺も、そろそろ……」
ピアスを引っ張る手とは反対の手が下腹部に伸び、イッたのにまだ張り詰めるそこを握り扱き始めた。
「っあ!あっ…あ、だめ、だめぇそれ、しぬ、しんじゃうから、っあ、あっ!」
「こんなんじゃ、死なねえ…っよ、ハル、こっち向け……」
「んうっ……!」
唇が重なった後一瞬離れて舌が伸び、口の外でそれが触れ合う。ぐいっと頭を寄せられ、喰らいつくように唇を塞がれれば腹の中で熱いものが広がった。急に動きが止まり、奥に擦り付けるかのようにぐりぐりっと押しつけられればおれもやっと吐精した。
+
行為が終わった後、丁寧に服を着せられ靴箱まで肩を貸してもらった。
「学校でするとかマジで有り得なかったんですけど 」
「でも春樹から着いてきたじゃん、トイレ 」
「それは……まぁ……」
ゴニョゴニョ言いながらゆっくり歩く。片桐先輩は時折よろけるおれを抱き止めるためか歩幅を合わせてくれていた。
「そんで、俺の家でいいの?春樹の家のが近くね?」
「うち帰っても食材何もないから……」
「まあその足で買い物と料理させんのも可哀想だしな 」
なんて冷蔵庫の中身を考えながら歩いていると、足がもつれて片桐先輩にもたれかかってしまった。まだ子鹿のように震える足が憎い。
「……明日予定とかないよな 」
「…………まあ……そもそも、あったら先輩の家行きませんし…… 」
「バレンタインだしさ……うち着いたらまたしていい?」
片桐先輩の手がこちらの腰を抱く。……正直もう足が限界のため断りたい。でもどうせするのは家の中だし……片桐先輩がここまで言うなら、きっと歩けなくなっても面倒を見てくれるはず……
「……好きにすれば 」
勝手に口が動いていて、言い終わった後、そっと自分の口を手で押さえた。
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