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第39話

放課後、片桐先輩と一緒に指定した公園に向かった。駅前から歩くこと10分弱。広い敷地の運動公園で、玲央先輩の姿を見つけた……のだが…… 「……あ、来た 」 「どうも。……あの、そっちの二人は……」 公園には玲央先輩以外にも二人の男女がいた。女性の方は軽く一礼をして、男性の方は軽い調子で手を挙げ……女性に「馴れ馴れしすぎない?」と小突かれた。 「オレと二人だと怖いかと思って武田さん……女性の方に声かけた。こいつは勝手についてきただけ 」 こいつ、と指さされた男性は「いやだってデートかと思うじゃん」と言い訳をした。デートかと思ってついてくるのもどうかと思うが…… 「でもそっちも友達連れてきたんだ。初めまして、東野玲央です 」 「ああ……片桐蒼真です 」 片桐先輩が「でっか……」と呟いたのをおれは聞き逃さなかった。今身長いくつなんだろう。180ある片桐先輩よりも大きい。腕も太けりゃ胴も足も詰まってて…… 「待ってるから準備してきて。体操着着替えんのと柔軟と 」 「わかりました 」 一応下に着ては来ていたが、流石に外で脱ぎ出すのは駄目だろう。女性もいるしびっくりさせるかもしれない。きょろ、と少し見回してトイレに向かい、体操着に着替えて荷物を片桐先輩に預けた。 + フォームを見てほしいということで、一旦走りをスマホで録画してもらった。カメラを向けられると緊張する。いつも通りに走れた気もしたが、やっぱり客観的に見ると体幹もぶれていた。 「春樹って足回すのと歩幅大きくするのとどっちのが走りやすいっけ?今だとどっち付かずになってるから統一したらもうちょいタイム上がる。……まあ、今の状態でも十分早いから、対人ガチらないならフォーム直さなくていいんじゃないかとも思うけど 」 「駄目。体育祭の組み分けでおれだけ別チームになったんです。あと、連れてきたこの人帰宅部のくせにめっちゃ足速いから混合リレーとかでかち合ったら絶対負ける 」 速くてごめーんとヘラヘラする顔が鬱陶しい。気になったのか玲央先輩は「片桐くん今走れる?」と声をかけた。 「靴ローファーで制服でいいなら 」 「いいよ。あ、サイズ合うならオレの靴貸すけどいくつ?」 「26.5っす 」 「ああ駄目だ、オレ30 」 「でっっか……」 玲央先輩の連れてきた二人も驚いている。中学三年の夏休みの時点で「やばいまだ身長伸びてる」と笑ってたし、あれから更に身長も伸びたんだろうなぁ……。 「あ、四月に測ったタイム覚えてんですけどそれ言います?14秒7なんですけど 」 「結構速いね。……やっぱ直すしかないか、フォーム。春樹、実際に体触る方が覚えるだろうけど……触っても大丈夫?」 「…………まあ 」 必要なら仕方ない。どこから直すんだろうかと思っていると「この辺とか」とスマホの画面を見せられた。 「腕の振りをもうちょい後ろにして、重心を前に。ちょっとゆっくり目に、今走ってる時みたいに腕振ってみて 」 「こう?」 「そう、そこでストップ 」 ピタッと腕を止めると、そのまま後ろに振っていた腕を更に後ろに引かれた。ゾワッと全身の毛穴が開き脂汗が出る感覚がする。 「この辺まで引き上げるのが理想。流石に一日で覚えるのは難しいけど、春樹体動かす方が……」 説明が途中から入ってこない。振り払って逃げたいのに、身体が、抵抗することを諦めるかのように動かない。 掴まれた腕の温度と上から降ってくる声があの日のことを思い出させる。その相手も今腕を掴んでいる相手も同じ人間で、だからか余計に怖くて、息が苦しくなってきた。 かくんと膝が折れてその場に崩れ落ちる。胸の中をかき混ぜられる感覚に戻しそうになったが、吐きたくない。掴まれたままだった腕が離され、頭を打つ直前に安心する匂いに包まれた。……その匂いの元をぎゅっと掴んで、離さないようにして目を瞑ると息が吸えるようになってきた。 + ベンチに仰向けに寝かされたまま瞬きをする。ゆっくり頭を撫でてくる手が心地いい。……なんで倒れたんだっけと思いながら体を起こすと、「まだ寝とけよ」と戻された。 「……片桐先輩、玲央先輩は 」 「飲み物買いに行ってる。……なあ、春樹。お前あいつに何されたんだよ 」 「……言いたくない 」 言ったらまた思い出す気がする。また外で倒れるわけにも行かない。 ……それに、片桐先輩に知られたくない。この人は男も女も気にしないタイプだけど、合意と非合意で感じ方は変わるだろう。例え被害者だとしても、好きな人から腫れ物に触れるような扱いをされたくない。 「あいつ戻ったら帰るか、今日は。アイス食べたいしコンビニ寄ろうぜ 」 じっと片桐先輩の顔を見ていると額にキスされた。 「ここ外ですよ 」 「いいだろ。東野の友達も帰ったから周り誰も居ねえし 」 「……なんか玲央先輩に当たり強くないですか?」 「気のせい 」 ため息をついて、やっぱり体を起こした。「まだ寝とけ」という片桐先輩の静止に大丈夫だと告げて横に腰掛ける。少しすると玲央先輩はペットボトルを持って戻ってきて……「明日も予定が無かったらお願いします」と告げて、困惑する先輩二人を説得してこの日は解散になった。

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