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第41話
「———それでは、ここに第××回体育祭を開催します 」
拍手が起こり、それぞれクラスごとにテントに向かった。自分が出る競技はスウェーデンリレーと、二年男子全員参加の騎馬戦と、最終競技の紅白対抗混合リレー。流石に性別までは分かれているが、クラスや学年がごっちゃになったこのリレーはこの体育祭の目玉となっている。それまでは座って、テントの下で他の競技を見て……
「朝倉くんクッキーあげるからTiktoc撮ろー 」
「暑いから嫌ー 」
回ってきたスモアクッキーを受け取るがTiktocは断った。エロじゃないから顔出しは別に構わないが、初夏なのに既に暑いからテントの外に出たくない。
「んじゃ映んなくていいから撮ってて 」
「それおれじゃなくても良くない?ていうか見る専で投稿したことないんだけど……」
「え、逆にいいじゃん。やってやって 」
流行ってるやつと同じ構図か、それともリテイク前提でおれが構図を決めて撮るか……。これ確認取る方がいいよなぁと思いながら、とりあえず同じ構図で……レンズだけいじって撮ることにした。
……が。
「なんか通知きた 」
「待って貸して貸して貸して 」
と食い気味にスマホを奪い取られ、自撮りを始めた。
「朝倉くんビーリル撮らなくていいの?」
「やってないしいいや 」
「そっか。あ、写真撮ったけどいい?」
「……次から撮る前に言って 」
どんなの?と見せてもらうと、本当に興味なさそうな顔で女子達を眺めている写真だった……。かろうじて目はしっかり開いてるけど……もっと盛れたやつを撮ってほしかった。
「……あ、スウェーデンリレーの走者集まれって言われてる 」
「行ってくるわ 」
「いてらー 」
と、テントを出て入場門の方へ。道中三年のテントの裏を通るからか、「あっ春樹くんじゃん」と知らない先輩に声をかけられたため、なんとなく足を止めて軽く会釈した。
「春樹くん外カメだからってビーリル無愛想すぎん?」
「すっごい気抜けてたんでしゃーないですよ 」
というかなんで見えたんだこの人……。ビーリルとやらはよくわからないが競技に集中させてくれ。今から並んで走るんだから。
……「頑張れよー!」とかやめてくれ恥ずかしい。というか関わりないのに……いや、あの人白組か。なら頑張るか。深呼吸して自分の位置に並んだ。
+
……とのやり取りをしたのが少し前。内から赤・白・赤・白と交互に並び、第一走者である自分はトラック二枠目。……あれ、スタート練習したっけ?まあ適当にやってもなんとかなるでしょ。
なんて考えながら地面に指をつき、クラウチングスタートの体勢を取る。用意、とアナウンスがされた瞬間空気が張り詰め———
パンッ!と空砲が鳴った瞬間、弾けるように体が飛び出した。
体を軽く前に倒す。
腕の振りをいつもより大きくする。
すると足のストロークも伸びる。
ぐんぐんと、どこまでも走り抜けられそうな気がして———ふと、前に次の走者が待機しているのに気付き、パシンと手にバトンを叩きつけた。
数歩歩くと一気に肩から体が重くなった。息を吸うと肺が痛くなりそこだけ鉄球が入っているかのように苦しい。後続が通らないのを確認してトラックの中心に移動ししゃがんだ。
「朝倉あんな足早かったんだ 」
「特訓した 」
まだ距離の短い第一走者だからというのもあるのかもしれないが、自分の繋いだバトンは一番早くに第三走者へと手渡された。普段運動しないからか、じわー……と汗が出てくる……。
「あっ……っつ……」
ぼやきながら手で汗を拭い、天を仰ぐ。風はあるものの、やっぱり暑い。応援をBGMにあ"ー……とゆっくり流れていく雲を眺めていると、ゴールを知らせる空砲が鳴った。
『只今競技が終了しました。参加した選手はご起立ください 』
疲れて重くなった体を持ち上げて、アナウンスで白組が勝ったことを告げられると……確かに嬉しくはあったがそれより汗がドバドバ出る不快感の方がでかい。退場門に向かって競技参加者全員で歩いて戻ると、何故か片桐先輩がすぐ目に入った。
「春樹お疲れ〜……って汗やばくね?熱中症?」
「いや通常。おれ代謝だいぶいいんで 」
飲めよと手渡された水筒をもらい、飲み干す勢いでそれを喉に送り込む。キンキンに冷えた麦茶が喉を抜け、胸の内側から冷やしてくる感覚が心地いい。
……勢いでやった行動で罪悪感が出てきた。サイズ近いしおれの水筒と交換しよう。
「……ていうか、待ち伏せしてました?」
「してた。走りの特訓の時いつもすぐバテバテだったから飲み物飲むかなーって 」
「そうですか……そりゃどうも 」
素直に礼も言えないのかと口に出してから思ったが、何故か素直に言うのも悔しい。自分のテントに戻る前に「ちょっと待っててください」と引き留め、自分の水筒と着替えを持って、水筒だけ片桐先輩に差し出した。
「飲んじゃったんで昼まで交換で 」
「いやいいよ。うちの担任クーラーボックスにめっちゃスポドリと麦茶入れてきたから補充できるし。着替えんの?」
「まあはい。インナーから体操着までベッタベタだし、汗も拭きたい 」
「ふーん。代謝いいのも大変だな 」
と会話が終わる。ふと、片桐先輩の口角がちょっとだけ上がっているのに気付いた。ああこれ、また何か考えてる顔だ。
「な、背中拭いてやろっか?」
「あーやっぱり 」
「やっぱりってなんだよ 」
「絶対触る口実作ってくるだろうなって。……今日新しいピアスつけてきたんで校舎戻って着替えるんですけど 」
「え、見せてくれんの?」
「そんなこと言ってませんけど 」
それじゃ、と手を振って校舎に向かうと「いや見せろよ〜」と小走りで追いかけてきた。
「先輩競技は?」
「午後からのやつだけ。駄目?ちゃんと体拭いてやるけど 」
「……んじゃ手の届かないとこだけ 」
背中だけお願いしますねと念押しして、付いてくることを許可した。まあどうせ、なんだかんだで背中以外も許しちゃうんだろうなと一瞬思ったが、考えないようにして靴を履き替えた。
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