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第42話
便器の蓋に着替えを置くのは抵抗があるし、個室に二人は狭いためいつも放課後に行く空き教室に。「日光入らないとこあるだけでだいぶマシですね 」「でもあっちいよ」なんて会話しつつ廊下を歩き、到着して……念の為鍵もかけて上の服を脱いだ。
「うーわ、脱ぎにく…… 」
「張り付いてんの?」
「そ。インナーとかも重いです」
裾から捲り上げ、汗を吸ったインナーを差し出すと「いらんいらん」と拒否られた。仕方なく机に置く。次この机を使う誰かには申し訳ない……。その机に軽く体重を掛けて、片桐先輩と向かい合うようにする。
「んでこれが新しいヘソピ。似合います?」
「似合う似合う。また主張激しいやつ着けてんな 」
今回着けてきたやつは、水色のヤモリ型のチャームがついた揺れるタイプのピアス。チャームの大きさは女性の小指の爪くらいの大きさ。ヤモリなのにぴんっと弾くとゆらゆらして、キラキラと光を反射させた。
「これ走る時邪魔になんねえの?」
「インナーがぴったりのやつなんでそこまで揺れませんでしたね。ていうか先輩、早く拭いてください 」
急かすと片桐先輩は「はいはい」と汗拭きシートを取り出し、まず俺の右手を取って、すーっと手の甲から肩に滑らせる。
「春樹って意外と腕しっかりしてるよな 」
「なんですかそれ 」
「んー、腰とかほっそいのに腕そこそこ硬いなって。料理してるから?」
「あー……水曜とか買い物の量多くなるんで、それもかも 」
「そ 」
なんか意外〜と言いながら片桐先輩はそのまま肩を拭いて、脇から脇腹を撫でて腹に。そこから胸元まで撫であげて……
「……何乳首見てんですか 」
「んー?今日乳首にピアス付けてねえんだなって 」
その会話をしながらシート越しに手が首に触れ……一瞬頭の中がゾワッとした。
「……と、首駄目なんだっけ。自分で拭く?」
「……い、一旦、試しで 」
「りょーかい。駄目だったらちゃんと拒否な 」
つってもお前言わねえよな……とぶつぶつ言いながら、サッサッと手早く首元を拭かれた。
首を触られるのが怖い。例え信頼してる人でも、首を覆われると息が詰まって、まるで風力発電でもされていたかのように体も固まってしまう。
「……春樹、深呼吸できる?」
返事をしたいが、震える口を開けるので精一杯。吸おうとしているのに吸うことも吐くことも浅くしかできない。
だんだん息が吸えなくなる。
首がきゅうっと締まる。
胸が苦しくなって、
吐く息も消えて、
———ふっと唇に息がぶつかり、その一瞬の後に唇が重なった。……唇が離れた途端、びっくりしたのか恐怖は飛んでいって息ができた。
「……もう吸える?」
「……吸え、吸えっ、なかった、けど……」
「おっけ、今吸えてんならいいわ 」
そう頭を撫でて抱きしめて、今度はそのまま背中を拭き始める。新しいシートを出す音が聞こえたからきっと新しいので拭いてる。
……後ろを向かせた方が拭きやすいだろうに、抱きしめたまま拭いてくれている。ケア優先してくれてるんだ。ほんとこの人おれのこと好きだな……。
脇から腕を回し、ふー……と大きく息を吐くと、片桐先輩はトントンと軽く背中を叩いた。
……汗の匂いがする。そりゃそうか、ずっと晴れの下に居たしな。それに今日は暑いし……
……なんか、こう距離が近くて、体温も高くて……片桐先輩のにおいがすると、なんか……
「……なぁ、勃ってるけど 」
その揶揄うような言い方を無視して肩に頭を置いた。そのまま背中を拭かれて、肩甲骨の辺りから抱きしめられて、片桐先輩はそのままおれを抱えて椅子に腰掛けた。
「パンツん中拭いていい?」
言いながら指先が体操着のゴムの下に挟まれる。黙っていると肯定だと受け取ったのかそのまま手が侵入し、シートのひんやりした冷たさと手の熱さが同時に尻を撫でた。
「ん……っ 」
反射的にぎゅっと腕に力がこもり、抱きしめると尻を撫でている方とは反対の手が背中を撫で上げて、片桐先輩もぎゅっと肩を抱いた。
「ほんと代謝いいな、お前。さっき背中拭いたのにもう汗ばんできてる 」
耳元で話され、ちゅっと首にキスが落とされると「しょっぱ」と感想を言われた。別に汗の感想を言われるのが初めてというわけでもないが、なんだか恥ずかしくなってべちん!と音が鳴るほど強く叩いた。「痛って!」と文句を言われたが知らない。
「痛ってえな本当……。汗の味とか今更だろ 」
「……なんかイラッとしたんで 」
「でも汗の味しないよりは良くね?」
「そりゃそうですけど……。……その、汗の味言われんのって恥ずかしくないですか?」
「あー、イラッとしたんじゃなくムラッとしたんだ 」
「はぁ!?」
思わず大声を出してしまうと「図星じゃん」とヘラヘラ笑われた。「関係ないでしょ!?」と反論したが……
「でもさぁ、否定できなくね?ケツ撫でてた時よりおっ勃てて違うは無理あるでしょ〜 」
「だっ、誰のせいで……」
「俺のせいでーす 」
だから、とそれが露出され、空気に触れる。半端にずらされたハーフパンツからまろび出たもの同士が触れ合って、反射的に引いた腰がぐいっと引き寄せられた。
「おっ勃たせた責任取るし、俺も勃ったし……一緒に気持ちよくなろ 」
な、と顔が近付く。目を瞑ると唇がまた重なり、ぬるっとした舌の感触と、下半身に触れる手の温度で息が震えた。
「…っ、は…ん……」
小さく吐き出された声ごと飲み込まれ、手を根元から先へとゆるやかに滑らせる。擦れる感触に合わせて肩が小さく揺れた。手に力が籠り、片桐先輩の体操着に皺が寄った。
「ん…ほら、気持ちいい……」
キスの合間に呟かれるその言葉が脳に刷り込まれるようで、身体の中心が敏感になっているのか息を吐く度に喉が震えて小さく声が漏れた。
「あ…っ、ふ、くぅ……っ…!」
先端を掌が包み込み、指がわずかに締まる。擦り上げられるたびに熱が指先に馴染み、ぬるりと滑りやすくなっていく。
耳元にかかる吐息が熱く唇を噛みしめた。
「……声、我慢すんなって 」
そう囁くと同時に動きがほんの少し速くなる。自分からも腰を押し付けて、擦れ合う先が溶けるんじゃないかと思うほど、酷く熱い。
「はぁ、っあ…あ、ッ……!」
「気持ちいい時、なんて言うんだっけ?」
「き、もちっ……そうま、そこっ…強くして……!」
「ん、おっけ 」
ぎゅっとカリ首から強く握られ、返事と同時に掌が脈打つものを包むように握り、ぐっと根本に押し込まれる。圧が一気に増して、擦れ合う感触が鋭く腹の奥に響いた。
「っあ、ぁ、あぁあっ!」
反射的に肩が震え、掴んでいた体操着にさらに皺が寄る。「ハル」と声をかけられ、額をもう片方の手で押されると唇が重なった。その間もずっとぢゅこぢゅこと下をいじられ続け、唇が離れるとそこが磁石になったように追いかける。溶け切ったガムのような舌が触れ合って、片桐先輩のものもより熱を持った。
「はぁ、っあ、あ……ッ…も、いく、いく、いくっ、そ、まぁっ、そうまぁ……!」
「いい、っよ……ハル、ハル…っん、あ、俺もっ……」
「あ、あぁあ、っあ!あ、ッあ……!」
目の前に、頭の中にちかちかと火花が弾けて、全身に電流が走ったかのようにビクンッと一度だけ大きく、更にもう何度か体が跳ねた。
外からは体育祭の喧騒が微かに聞こえるが、窓も扉も閉じたここは、二人の呼吸音しかしない。
荒くなった呼吸音が耳から少し遠くなり、でもすぐにぶつかって、次の瞬間口の中で響いた。
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