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第45話

判定の結果、勝者は白組。混合リレーの得点は10点のため、体育祭は逆転して白組の勝利で終わった。 そして片付けもホームルームも終わり、放課後…… 「朝倉、明日打ち上げ行くけどどうする?デート入ってる?」 「行くよ。ていうか付き合ってないから 」 「はいはい。来れなかったらまた連絡しろなー 」 日頃の行いもある上借り物競走であんなことがあった結果、こうなった。ニヤニヤしながら去るクラスメイトを尻目にいつもの空き教室に向かうと…… 「…………人いるじゃん 」 野次馬なのか数人、先輩が教室の前に居た。こちらに気付くと「あ、俺らもう帰るから〜」とそそくさ去っていくが、どう見ても表情が『覗くぜ』と言っている……。 はぁ、とため息をついて空き教室の扉を開けた。 「片桐先輩、お待たせしました。帰りましょう 」 「……あーい 」 一瞬『え、なんで?』とでも言いたげな表情をしていたが、覗きがいると言うように人差し指を右に向けるとそう返事した。 「どうする?どっか行く?」 「おやつ食べたいです 」 「んじゃマックド行くか 」 おやつが夕飯になるような気もする……。靴を履き替えて校門を出て、駅前店で注文を…… 「なあ、やっぱテイクアウトにしねえ?んで俺んち行こうぜ 」 「えー……いいですけど…… 」 片桐先輩はセットこそ一つだが、大きなバーガーを二つも頼んだ。明らかにおやつの量じゃない。 おれは照り焼きのセット。こちらもおやつの量じゃないが、夕飯も兼ねているから問題ないんだ。……多分。 「春樹ナゲット食う?」 「一個だけ欲しいです 」 「ナゲットも追加で 」 いつもの如く奢ってもらえて、紙袋を持ってポテトをつまみながら帰路についた。 「春樹、一個聞きたいんだけどさ 」 「はい?」 「『女の子の方が好き』つっといて、俺に関係の継続考えとけって言ったけどいいの?」 「そりゃ、はい。……理由とかは外で話すの恥ずかしいんで、室内入ってからでいいですか?」 「ああうん……いいけど、それ答えに期待していいの?」 「……さあ 」 誤魔化すように返事をして、ポテトを一度に五本ぐらい取った。片桐先輩のLサイズポテトから。 「そんな食べると家着いた時無くなんぞ 」 「大丈夫ですよ 」 おれのポテトは無くなりませんから。 それは口に出さずに、代わりに開いた口にポテトを詰め込んだ。 + お疲れさまとコーラで乾杯し、ナゲットを分け合ってお互いを労った。特訓のおかげでおれは足も速くなったし……見たらだいたいできる片桐先輩も速くなったのは誤算だが、それでもなんとか勝てたんだ。 「先輩、手貸してください 」 ん?とこちらに差し出された手を取り、眺める。 指先から手の甲へ、視線がゆっくりと辿る。 がっしりした指の関節や、少し硬い皮膚の感触に胸がくすぐられて、思わず息をひそめた。 「……おれ、本当に女子の方が好きなんですよね。こんな風に、しっかりと関節が節くれ立って、おれの手とそんなに大差ない大きさの手よりももっと丸くて真っ直ぐな指の持ち主の方がいいはずなのに 」 「……でも俺がいいんだ?」 「はい、片桐先輩がいい 」 そっと手を包み込み、指先で手のひらをなぞると握り返された。視線を手から片桐先輩の顔に向ける。 「おれ、片桐先輩が好きです。去年の夏休みが明けてからずっと 」 握った手を頬に当て、しっかりと目を見て告げると、後頭部に手が回ってゆっくりと体が密着した。お互い緊張しているためか、ドッドッドッと激しい心音が聞こえるがどちらのものかわからない。 「……あー……やべ、嬉しすぎてどうしたらいいかわかんねえ……」 「ハグで合ってると思いますよ。……でも、今日のおれ汗臭いんで離してほしいですね 」 「いや 」 「……はいはい 」 そっと腕を片桐先輩の背中に回し、軽く引き寄せた。おれを抱き締める先輩の腕もこちらを強く締め付けて……おれはそっと目を閉じた。 + 抱き合って数分。スマホが通知音を立てて、ふとSNSのことを思い出した。 「片桐先輩、付き合う付き合わないの話になるんですけど、ちょっと夏休み前まで待ってほしいんですよね 」 「えっ……好き同士なのに?」 「精算しなきゃいけないことがあるんで。……始業式までには終わらせますから 」 現在6月初旬、じきに7月になる。エロ写真を投稿すれば反応がもらえる、承認欲求を満たせる裏アカをパッと消せるかと言われると難しい。 だけど、片桐先輩は多分おれがこういうこと続けるの嫌だろうしな。だから始業式までのほぼ一ヶ月、時間をもらうことにした。……いや、本当に消すの惜しいな……。 「精算しないとって何を?東野関連?」 「内緒。……ていうかあんた、玲央先輩のこと呼び捨てにしてるんですか 」 「んー、別に良くね?」 体を少し離すと視線がぶつかった。少しの間見つめ合うと珍しく片桐先輩の方から目を逸らした。 「蒼真先輩、こっち向いて 」 そう告げると一瞬だけ目がこちらを向いた。身を乗り出し、チュッと頬に口付けると手でこちらの目を覆われた。 「……シラフの時に名前呼ぶのはずるいだろ 」 「知らない 」 目元を覆われたまま唇が重なって、自然とこちらも目を閉じた。そのまま何度も唇が重なり、触れ合ったまま、背中がソファの座面についた。

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