9 / 18

第9話―番外編―

「ふたりきり、裏の境内で」 初詣の人波が落ち着いた午後。 「こっち、ちょっとだけ来て」 境内の裏手、石垣の影。 風の音と鳥の声しか聞こえない、小さな静寂の場所。 「……やっと、少しだけふたりになれた」 神主装束のままのレンが、俺の袖をつかむ。 その手には力がなくて、でも、 離したくなさそうに指がからむ。 「ずっと頑張ってたね。かっこよかったよ」 「……本当はね、途中で何回も、悠馬に触れたくなった」 レンの声がかすれる。 「でも、神主の顔してるときは、我慢しなきゃって―― ……でも今は、ちょっとだけ……」 小さく肩にもたれてきたレンの髪から、 ふわりと香る、冷たい空気と、少しの温もり。 「悠馬、好き。……甘えても、いい?」 俺は何も言わず、 そっとその細い肩を抱き寄せた。

ともだちにシェアしよう!