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第11話 春を迎える、君のそばで ―準備編―
「これ、ここで合ってる?」
「うん、五人囃子はこっちの段だよ」
雛人形の飾り付けなんて初めての俺に、レンは慣れた手つきで教えてくれる。
白い指先が、緋毛氈(ひもうせん)の上で人形をそっと立たせるのが、妙に綺麗で。
「……なんか、慣れてるんだな」
「うち、妹がいたから。小さい頃から、手伝ってて」
そう言って笑ったレンの顔が、どこか遠くを見ているようで。
ふと、触れてはいけない記憶をのぞいたような気がした。
「でも……悠馬と飾るのは、初めて」
ぽつりと呟いた声に、ちょっとだけドキッとする。
「初めてって……別に、俺、女の子じゃないし」
「うん。でも――君となら、なんでも楽しいよ」
少しだけ赤くなって笑ったレンに、
俺はもう、どうしていいかわからなくなった。
人形の並ぶ段のそば、
小さなスペースで、ふたりきりの春支度。
心まで並べ直すような、優しい時間だった。
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