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第12話 春を迎える、君のそばで ―当日編―
雛飾りの前で、子どもたちの笑い声がはじける。
今日は神社で開かれる、町の小さなひな祭り。
レンは神主装束に身を包み、受付や案内役に立ち回っていた。
「ありがとうね、レンくん。いつも助かるわ」
「いえ、こちらこそ。楽しんでください」
柔らかく笑って応える姿が、すっかり町に溶け込んでる。
それを少し離れたところから見ていた俺に、
気づいたレンがふと目を合わせてきた。
誰に向けるよりも優しい目で。
「悠馬、こっち来て。一緒に写真撮ろ」
子どもたちが呼んでくれて、俺はちょっと照れながらも雛人形の前へ。
レンの隣に立つと、さりげなく肩が触れる距離。
「ねえ、ちょっと笑って」
小声でそう囁かれて、反射的に笑った瞬間。
シャッター音と一緒に、レンの指先が俺の手をそっと握っていた。
見られないように、ほんの一瞬だけ。
「……こっそり、春の魔法。ってことで」
少し胸の奥が、少し痛くて、あたたかくなった。
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