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第13話 春を迎える、君のそばで ―片付け編―

「雛人形って、早くしまわないとお嫁に行けなくなるんだって」 赤い毛氈を畳みながら、俺は何気なく言った。 「ふふ、じゃあ……もう間に合わないかもね」 「え、なんで?」 「だって、俺……ずっとここにいるつもりだから」 手を止めたまま、レンが俺を見た。 夕焼けに染まる本殿の隅。 雛壇の影が、ふたりの距離を包む。 「……冗談、だよな?」 「どうかな。でもね、悠馬がいてくれるから、今の俺がある。 そう思ったら……ここで終わりにしたくなくて」 少し潤んだ目で、レンが微笑む。 「本当は……ずっと、こうしていたいって思ってた」 その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。 俺も、同じだったのに。 「レン……」 呼んだ名前の続きを、どう言えばいいかわからなかった。 けど、言葉の代わりに、そっと手を伸ばした。 重ねられた指先が、静かに春を迎える合図だった。

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