14 / 18
第14話 言葉じゃなくても、君に届く
境内の掃除も終わって、誰もいなくなった夜。
空にはまだ冷たい風。けれど、どこか柔らかな匂いが混じっていた。
レンは神主装束のまま、拝殿の縁側に座っていた。
その隣に、俺も腰を下ろす。
「……今日は、よくがんばったな」
「悠馬もね。子どもたちに囲まれて、大変そうだった」
「俺、子どもに好かれるタイプじゃないと思ってた」
そう言うと、レンは少し笑って、
「それでも、優しい目で見てたよ。ずっと」
そう言われたのは、初めてだった。
火照るような気持ちが、胸の奥からこぼれそうになる。
俺はレンの横顔を見つめた。
灯籠の光が、静かに頬を照らしている。
「……なあ、レン」
声が少し震えた。
でもその手が、そっと俺の手の上に重なったとき――
「何も言わなくていいよ。わかってる」
それだけで、全部が伝わった気がした。
ふたりだけの、言葉のいらない告白。
春の夜風に、心がほどけていった。
ともだちにシェアしよう!

