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第14話 言葉じゃなくても、君に届く

境内の掃除も終わって、誰もいなくなった夜。 空にはまだ冷たい風。けれど、どこか柔らかな匂いが混じっていた。 レンは神主装束のまま、拝殿の縁側に座っていた。 その隣に、俺も腰を下ろす。 「……今日は、よくがんばったな」 「悠馬もね。子どもたちに囲まれて、大変そうだった」 「俺、子どもに好かれるタイプじゃないと思ってた」 そう言うと、レンは少し笑って、 「それでも、優しい目で見てたよ。ずっと」 そう言われたのは、初めてだった。 火照るような気持ちが、胸の奥からこぼれそうになる。 俺はレンの横顔を見つめた。 灯籠の光が、静かに頬を照らしている。 「……なあ、レン」 声が少し震えた。 でもその手が、そっと俺の手の上に重なったとき―― 「何も言わなくていいよ。わかってる」 それだけで、全部が伝わった気がした。 ふたりだけの、言葉のいらない告白。 春の夜風に、心がほどけていった。

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