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第15話 おはよう、が特別になる朝

神社の朝は静かだった。 雪が溶けはじめた石畳を踏む音も、空気に吸い込まれていく。 本殿の奥、ふわりと漂ってきたのは味噌と出汁の匂い。 襖を開けて見えたのは―― 「……レン?」 目を擦りながら声をかけると、エプロンを着けたレンが振り返る。 「あ、起こしちゃった? 朝ごはん、もう少しでできるよ」 白いシャツに、腰まで結んだ黒のエプロン。 髪は寝癖もなく、ちゃんとまとめられていて―― なのに、どこか生活感があって。 一瞬、言葉が出なかった。 「……やばい。なんか、今のめっちゃ好き」 「え?」 「レンのそういうとこ、ずるいなって思った」 「朝から何言ってんの」 照れ隠しに笑うレンに、思わず後ろから抱きついた。 「ちょ、危ないって言ってるでしょ、熱いから」 「だって、夢みたいなんだよ」 「夢じゃないよ。……ちゃんと、恋人でしょ?」 その言葉が、胸に優しく落ちてきた。 これが恋人として迎える、最初の朝。 味噌汁の匂いも、レンの背中のぬくもりも、 すべてが“好き”で溢れていた。

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