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第17話 春を迎える支度
春の陽射しが境内を優しく照らし、梅の香りがかすかに風にのって流れてくる。
境内では、春の神事に向けての準備が着々と進められていた。
レンは白衣に薄緑の袴を纏い、真剣な表情で祭具を整えている。
その横で、僕も神主装束に袖を通し、彼の手伝いをしていた。
「これ、次は本殿に運ぶんだっけ?」
「うん、でも重いから一緒に持とうか」
何気ない会話の中にある穏やかな空気。
手がふと触れ合った瞬間、レンがほんの少しだけ目をそらして、照れたように笑う。
「こうして君と一緒に神事の準備ができるなんて、不思議な感じだよね」
昔は、神域に閉じこもっていた彼。
今はこうして、僕の隣で春の訪れを迎えている。
「春ってさ、新しい始まりって感じがするよね」
「……君と迎える春だから、きっと特別なんだと思う」
ふたりで息を合わせて、紅白の布をかけた祭壇を整えながら、
僕たちはその「特別な春」に、そっと胸を躍らせていた。
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