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第10話 触れたいのは…
廃工場跡のような敵拠点の制圧任務。
狭く入り組んだ通路と、無数の死角。接近戦が中心となる乱戦の中──
「そこ、一人!」
「うん!」
低く鋭い声と共に、黒髪がふわりと弾んだ。
駆けていく細身の背、戦闘服がしなやかに身体に張りつき、エリスの脚線美を際立たせていた。
太ももから膝下にかけて、まっすぐ伸びたライン。華奢なのに芯のある足取り。
ぐっと重心を沈めたかと思えば、その身体は弧を描いて──
「っは!」
見事な回し蹴りが敵のこめかみに直撃した。
倒れる敵の首元に迷いなく短剣を滑り込ませ、寸分の狂いもない動作で制圧する。
「……っふ……」
一瞬、気を抜いたように、エリスは息を吐く。
揺れる肩、汗で張りついた髪、強い目と整った顔立ち。
そして細いのに力強い足。
少しだけ開いた唇から、湿った吐息が零れていた。
そのすべてが、グラントの胸の奥を、熱く、締めつけた。
気づけば、自分の足が自然と動いていた。
エリスのすぐそばまで歩み寄り、無意識に手を伸ばしていた。
その細い腰へ──抱き寄せるように。
(……っ)
触れる寸前、ハッと我に返った。
ギリギリで手を引っ込める。
「……グラント?」
ふり返ったエリスが、不思議そうに見上げる。
「どうかした?」
「……いや、なんでもない」
目を逸らし、背を向ける。
鼓動が速い。自分でも気づかぬうちに、あの腰に、あの背中に、引き寄せられていた。
(……ただ、ほっとけないだけだろ)
だが、今の自分の行動は──
(…違う)
戦場での緊張とはまた別の、甘い熱が体中に滲んでいた。
十四の子どもだったはずのエリスは、今や着実に実力を伸ばし、その肉体にも、精神にも、大人の男としての芯が見え始めている。
未完成の色気。
その不安定なバランスが、むしろ抗い難い。
自分の中で膨らんでいく感情に、グラントはまだ名前をつけられなかった。
ただ──もう、目が離せなかった。
エリスという存在が、戦場でも、日常でも、
ますます心を占めていくのを、止められなかった。
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