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第13話 離れていくのは、どっちだ──
煌びやかな光に包まれた、大広間。
天井には、クリスタルが反射して無数の宝石が散りばめられたような巨大なシャンデリアがいくつも吊られている。その光は会場全体を柔らかく、そして華やかに照らしていた。
その場には、各国の要人や貴族、軍の重鎮たちが一堂に会し、高級なワイングラスを手に微笑みを交わしていた。
その中心で背筋を伸ばして立っているのは、グラント・アイゼンベルク少佐。
最年少で少佐に昇進した異例の若き軍人は、まっすぐに背筋を伸ばし、各国の目利きたちから熱い視線を集めていた。
一九五センチの逞しい体格にぴったりと合う硬質な軍服。その肩に掲げられた金の肩章が、揺るぎない威厳を放っていた。
彼は次々と紹介される貴族らと握手を交わし、一言一言を丁寧に応じながら、礼節を保っていた。
「お噂はかねがね。さすが“鉄鬼”の異名を持つ方ですね」
「私の娘にも是非ご挨拶を──」
美しい令嬢たちが恥じらいながら近寄る。
彼女たちの瞳は、鍛え抜かれた体と、黄金色の瞳に引き寄せられていた。
無愛想に見えるが、短く丁寧に返すグラントの言葉には、確かな誠実さと知性がにじむ。それがまた、令嬢たちを惹きつけてやまなかった。
*
一方、会場の壁際に立つエリスは、正装用の制服を纏い、静かに場内を見渡していた。
任務は“会場内の警備”──だが、その視線はただ一人の存在を追っている。
(……すごいな、グラント)
憧れと、誇らしさと、そしてほんの少しの苦い感情が混ざっていた。
(あの人が“少佐”になって、肩書きも、立ち位置も、こんなに変わってしまった)
エリスは思い出す。
敬語を使い始めたあの日。
「けじめだ」と、距離を置くために変えた自分の態度。
そして、そのあとに、グラントから言われた言葉。
──『お前が離れていくようで……嫌なんだよ』
(そんなの…こっちのセリフだ、ばか…)
エリスの視線の先では、グラントが優雅に、令嬢の一人の手を取って口づけていた。
形だけの挨拶。そうとわかっていても、胸がずくりと痛む。
(どうしてこんなに、苦しいんだろう)
警護兵としてそこに立ちながら、エリスの胸の奥では、小さな嵐が吹き荒れていた。
気づけば、手袋の中の指先が、冷たくなるほど強く握りしめられていた。
──『お前に距離を置かれる方が、よほど困る』
目を伏せたエリスの唇が、音もなく動いた。
「……グラント、ずるいな」
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