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第16話 堕ちた楽園
ネオン溢れる夜の街。
風俗店やカジノが立ち並ぶその街は、派手なネオンサインと電飾が瞬き、賑わいを表していた。通りには香水と酒と、欲望のにおいが充満している。
ここは“楽園通り ”──知る人ぞ知る、歓楽街の穴場、合法と違法の境界が曖昧な場所。
その通りを、黒髪の青年が一人歩く。
一七二センチの細身ながら引き締まった体に、よれた薄手のシャツ纏い、太腿まで伸びるガーターを晒して。
大人びた肢体の、どこか幼さを残した顔──そのアンバランスさが、危険な色気を漂わせ、人目を引くには十分だった。
「……ちょっとやりすぎたかな」
わずかに苦笑を含んで漏れた声。しかし、その足取りは迷いなく奥へと進む。
エリス──ルカは、ターゲットのゲンゼル・ペイルが足繁く通うという賭博場へと向かった。
*
剥がれた看板、外れかけている扉、何十年も放置されたような廃れた建物に入ると、まるで別世界のようだった。
煙草と酒の混ざる濁った空気。
薄暗い空間の中、恰幅のいい男たちが煙をふかしながら、カードを弾いている。小綺麗なドレスを身にまとった女たちもそこに混ざってゲームを楽しんでいる。
──熱、欲、金。
そのどれにも属さない異質な気配がひとつ。
「おい、ガキ」
入り口に立っていた見張りの大男が、ルカの前に立ちはだかる。その腕には大きな刺青と、大きな金の指輪。
「ここはお前が来るような場所じゃねぇ、賭ける金がねぇなら帰んな」
そう言って、肩に手を置き、扉の方へ押し返そうとする。
その瞬間、ルカは俯き、睫毛を伏せ、震えた声を吐く。
「…行くところがなくて…」
わざと掠れたような声を出す。
「ここなら…買ってもらえるって、聞いたから…」
その言葉に男の目つきが変わる。
何人かの仲間と目を合わせて、手を退けて言った。
「…ついて来い」
大男は後ろを向き、賭博場の奥へと歩いていく。
ルカは何も言わず、その背中のあとを追った。
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