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第19話 闇を裂く黄金の光
爆音と共に扉が吹き飛ぶ。
破片が舞う空間に、一筋の稲妻の如く黄金の瞳が閃く。
「ルカッ!!」
覆いかぶさる男に、容赦ない蹴りが叩き込まれる。
「ぐはっ……!」
ゲンゼルの身体が壁際へ吹き飛び、背中を打ち付ける。
「……っ、グラント……?」
視界の端で揺れるブロンドと、怒気に満ちた足音。
霞んだ意識の中、ルカと呼ぶその声に、わずかに反応する。
まだしぶとく諦めないゲンゼルは、床に落ちた鋭いガラス片に手を伸ばす。
血が出ようとお構いなくそれを握りしめ、朦朧とするルカの方へと振りかぶった。
「クソが……ッ!!」
その瞬間──
パァン!
乾いた銃声が響いた。
グラントの構えた拳銃から発射された弾が、容赦なくゲンゼルの股間めがけて撃ち込まれる。
「ぐぅあぁあぁああぁぁぁっ!!!」
ゲンゼルは絶叫し、痙攣しながら崩れ落ち、床をのたうち回る。
グラントは銃口の構えを崩さぬまま、鋭く目を細め、そのままゆっくりと男に歩み寄る。
「……ゲンゼル・ペイル」
氷のような声。
「お前の罪は山ほどあるが……政府機密の窃取、未成年者の人身売買、さらに拷問記録と映像提供の裏取引。…全て“お仲間”が白状した」
「っ……!」
「この場での人身売買、性犯罪、違法薬物の所持と取引──それらの証拠も押さえている。そこの注射器も押収する。
……非人道的行為の数々、国家への反逆だ。──証拠ごと送致しろ」
グラントの背後にいた兵士たちが、ゲンゼルをねじ伏せて拘束具を取り付ける。
ゲンゼルは痛みと屈辱に顔を歪め、抵抗するようにもがいている。
「たかが……少佐の分際で……俺に楯突いて……っ無事で済むと思うな……!俺は這い上がってやる……っ!」
それでもなお、憎悪と執念を滲ませて吠えるゲンゼルに、グラントは静かに吐き捨てた。
「這い上がる?そのザマでか?」
一拍の沈黙──そして、低く鋭い声で続ける。
「……今度は出られると思うなよ。檻で吠えてろ」
その一言を合図に、兵士たちは容赦なく引きずっていく。ゲンゼルの叫びも、夜の闇に吸い込まれていった。
*
グラントはすぐさま振り返り、別の部下へ命じる。
「この建物内を捜索しろ。未成年の被害者を全員保護して、医療班に引き渡せ」
「そこの手下どもも拘束して、身元を洗え」
「注射器と他に拷問で使われていた薬を押収しろ。毒性の解析を急げ。オメガ専用の特殊薬剤のはずだ」
指揮を飛ばしながら、グラントは苦しげに横たわるエリスを振り返る。
シャツは乱雑に引き剥がされ、胸元が大きく開いていた。普段は隠れている滑らかな鎖骨と、微かに主張する淡く色づいた蕾が露わになっている。
白い脚には、外されたガーターの名残が絡むように残っている。
その妖艶すぎる姿に、グラントの喉が思わず鳴る。
乱れた吐息と、漂う甘いフェロモンの香りが、異様な色香を纏わせていた。
訓練で鍛えられた理性も、吸い込むたびに本能の底をくすぐられるようだった。
だが同時に、激しい怒りが込み上げてくる。
(……誰にも見せてたまるか)
その怒りは、エリスが奪われかけた事実への憤り──だが、間に合ったことに対する安堵も、確かにそこにあった。
「エリス…っ」
近づき、膝をついてその体を抱きしめる。
肩を包み、額を寄せ、全身で守るように。
「すまない…遅くなった」
掠れるほど低い声だった。
怒りと、焦りと、そして深い安堵がないまぜになって、胸の奥をかき乱した。
震える小さな体は、自分の腕の中に収まった瞬間、じわりと熱くなる。意識が朦朧とするなか、軽く喘ぐような声が漏れていた。
「もう大丈夫だ。俺がいる。」
その言葉に、震える細い肩からわずかな安堵が滲んだのを感じた。
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