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番外編:呆れる察しのいい男②
──あれから、ニ週間。
グラントの様子は、一見すると“少しはマシになった”ように思えた。
今日も今日とて、指揮は完璧、任務の遂行も抜かりない。部下たちはいつも通りの“鉄鬼”に、何も疑問など抱いていなかった。
……だが、クローネだけは知っている。
この男、方向を変えて“さらにおかしく”なっていた。
「…んー……ん?」
書類をまとめて歩いていたクローネは、またしても目撃してしまった。
──会議室の外、壁にもたれながらじぃっとエリスを見つめているグラントの姿を。
(…またやってるよ…)
役職が上がり、それぞれの仕事を抱えるようになった今、少佐と大尉が行動を共にすることはそう多くない。
それなのに、エリスが見つけるたびに、グラントは何かと理由をつけて近づく。
「この前の報告書、結果どうなった」
「次の会議内容、どこまで詰めてる」
(……いやそれ、さっき部下から全部聞いてたじゃん……)
そして、話しながら無駄に近い距離。
肩が触れそうなほど詰め寄り、エリスが振り返れば何気ない顔をしてほんの数センチだけ離れる。
それでもエリスは、完全に仕事モード。
書類を抱え、涼しい顔で応対しており、グラントのおかしな様子には気づいていない。
(もーーー……!)
耐えきれなくなったクローネは、その日の終わり、グラントの腕を無言で掴んだ。
「……少佐、ちょっと。来てください」
「……なんだ」
「いいから、来てください」
人気のない倉庫裏に連れ込むやいなや、クローネは振り返って叫んだ。
「三週間前、エリスが昇進した日の夜!なにがあった!?」
グラントは一瞬、目を伏せる。
「……なにも」
「嘘つけ!あの日からずっと様子がおかしい!気づいてるか?」
「……」
グラントは腕を組んだまま、黙っている。
しかし、その顔にはわずかに迷いが浮かんでいた。
「幸い、部下たちは何も気づいてない。だが俺はもう……もどかしくて、耐えられねぇんだよ!」
「……」
しばらくの沈黙のあと──
「……あの夜、キスした」
「……ッハァァアア!?」
クローネは盛大に頭を抱えた。
「ちょっと待って、それだけ?じゃあ、今この微妙な関係は何!? なんで進展してないの!?」
「……キスした時、エリスが泣いた」
「ほう……」
「……だから、逃げた」
「……………………」
風の音だけが吹き抜ける中、クローネは絶句して、そして叫んだ。
「いや、そこ押すところでしょぉぉおおお!!」
「……」
「“好きを伝える”チャンスだったじゃん!? “その涙の意味”を聞けよ!?」
「……どうしたら、いいと思う」
「知らねぇよ!!」
ぐしゃっと髪をかき乱して、ため息を吐くクローネ。
そのまま地面にしゃがみこみ、「ああもうこのポンコツ少佐が……」とつぶやいた。
その頭の中では、明らかにニブい大尉と臆病な鉄鬼の今後のすれ違いが予測されていた。
──ニ人が結ばれるのは、どうやら……まだ先になりそうだ。
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