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番外編:補佐官の酒のアテ

打ち上げも終盤を迎え、その喧騒はすでに薄れていた。 満腹と酒に満たされた兵士たちは、ふらふらと部屋へと戻っていく者、机に突っ伏してそのまま眠る者、静かに余韻を楽しむ者と、それぞれが自由な空気に包まれていた。 クローネ・大佐は、そんな残り香の中で一人、黙々と酒を舐めていた。 「……しかしまぁ、よく戦ったな」 誰にともなくそう呟いたその時── ドカッと音を立てて主役席にグラントが腰を下ろした。 「……あぁ?」 クローネが思わず声を漏らす。 さっき突然席を立って、エリスを引っ張って出ていったのはこの男だ。 だというのに、戻ってきた表情はどう見ても“勝利の祝杯後”のそれじゃない。険しく、不機嫌で、火薬のように危うい。 そのまま何も言わず、グラントはテーブルにあった酒瓶を手に取り、コップに注ぐことすらせずにぐい、と煽った。酒の筋が顎を伝い、喉元を濡らす。 「……おいおい。雰囲気ぶち壊しだなぁ」 そう言いながら、クローネは隣の席に身体を乗り出し、声をかける。 「で? 何したんだよ?また失敗か?」 「……べつに」 つっけんどんに返すその声に、酒を含んでいたクローネはふっと笑った。 「またかよ。あれだろ?酔ったエリスを見せたくなくて、我慢できずに連れ出したんだろ?」 「……黙れ」 「おや、図星。で、なんて言った?『可愛いお前を誰にも見せたくない…!』って?『好きなんだ…!』って伝えたのか?」 「……チッ」 その舌打ちが、何よりも正直な返答だった。 クローネは呆れと笑いが入り混じった顔で肩をすくめる。 「……あーあ、拗れたんだな。ほんっとエリス関連になるとお前ポンコツすぎるんだよぉ」 「……」 「そうやって言えないくせに、ちょっかいばっか出して、そりゃウザがられるわ。 知らねーぞー、いつか誰かにエリス取られても。誰だって、優しい奴の方がいいに決まってるもんな?」 追い打ちをかけるように言って、にやりと意地悪く酒を煽るクローネ。 グラントは無言のまま睨み返すと、低く唸るように言った。 「……明日の物資補給の調整業務、全部お前に投げてやる」 「はっ!?ちょっ、子供じみた報復すんな!」 「うるさい。もういい、俺は部屋に戻る」 ガタ、と椅子を引く音。 グラントは酔っているのか、それともただ怒っているだけなのか。足取り重く、しかしまっすぐに出口へ向かっていく。 その背を見送りながら、クローネはため息をついた。 「……ほんと、めんどくせぇ男」 だが、どこか楽しげに、満足そうに、彼はまた杯を傾けた。

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