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第34話 揺らぐ香りの先に

スミレの香りが鼻腔をくすぐり、エリスの体から徐々に力が抜ける。頭がぼんやりとして、熱がじわじわと体中を満たしていく。 レオンに傾きかける身体と、グラントを想う心の矛盾に、エリスはぽろぽろと涙をこぼす。 「……どうして……僕は……」 その涙を、レオンは優しく指先で拭った。 「大丈夫だよ、エリス。私が──君を幸せにするから」 そう囁くレオンの目は真剣だった。もう引くつもりなどない。今この場で、エリスを“自分のもの”にすると決めた目だった。 白くて繊細な首筋に、唇を近づけようとしたその瞬間── 「それ以上、近づくな」 ぴたりと空気が凍る。 レオンの唇に、硬い手が重なった。 いつの間にかすぐ近くに立っていた男、グラント。 その黄金の瞳が、獣のような光を宿してレオンを睨み据えていた。 「……離れろ。今すぐ」 静かだが、ひとつひとつの言葉に凄まじい殺気がこもっていた。レオンは、一瞬で気圧された。 「グラント……っ」 エリスが震える声で名を呼ぶ。その声に、グラントの視線は一瞬だけ柔らいだ。 けれどすぐに、レオンの肩を強く掴み、エリスから引き離す。 「こいつのフェロモンは、俺だけが受け止める」 その言葉に、レオンの目が見開かれた。 次の瞬間、グラントはエリスをその腕に、奪い取るように抱きかかえた。ふわりと鼻腔をくすぐる、グラントの香り。百合のように上品で、スパイシーな匂い。 (この匂い……) 体が、心が、求めていた。 求め続けていた、たった一人の存在。

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