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第37話 夜明けの語らい
夜が明け始める頃。
遠くの空が薄桃色に染まり、部屋には穏やかな空気が流れていた。
グラントの腕の中で、エリスが静かに息をしている。
白いシーツの中で寄り添い合い、ふたりは何度も、確かめるように見つめ合っていた。
グラントの大きな手が、エリスの黒髪を梳き、頬を撫で、背中を優しくなぞる。細い腰にそっと腕を回しながら、その輪郭を何度も、何度もなぞるように。
「……悪かった」
ふいに、グラントが低く呟いた。
「そばに引き留めたり、突き放したり……ずっと曖昧な態度で」
エリスは小さく首を振ると、グラントの胸に額を寄せながら言った。
「ううん。……僕も素直じゃなかったから」
その言葉に、グラントは優しく微笑み、ちゅ、とエリスの額に唇を落とす。
「お前と初めて会った日……俺に言いがかりつけられたのに、目を逸らさずに言ったよな。
『戦ってから判断しろ』って。
……あの時の強い眼差しを見た瞬間から、気になってた」
エリスが顔を上げると、グラントの黄金の瞳がまっすぐに見つめ返していた。
「俺を『殺してやる』って覆い被さってきた時には……多分もう、撃ち抜かれてた。完全に」
「そ、そうだったの……」
エリスが赤くなってうつむくと、グラントはくすりと笑いながら髪を撫でる。
「……あの時の生意気なお前も、可愛かったな」
「は、恥ずかしい……」
エリスは顔を赤らめ、グラントの厚い胸板に顔を埋めた。グラントは嬉しそうに、頬を指でなぞりながら語る。
「犬まみれの俺に大笑いしてたお前を見てから……お前が誰かに笑いかけるたびに、はらわたが煮え繰り返ってた」
エリスが少し意地悪に笑って聞く。
「今も?」
「……今も。きっと、これからも」
「ふふ……」
ふたりは肩を寄せ合い、足先を絡めながら、くすぐったいような笑みを交わす。
エリスの足がグラントの足をすりすりと撫でながら囁く。
「でも、僕も……ずっと前からグラントのこと、考えてた…。初めて訓練でアドバイスくれた時、ぶっきらぼうだったけど……優しいんだなって分かった。
…ふふ、ワンちゃんに囲まれてた時は、ああワンちゃんは分かるんだなって、はは……」
ふふ、と笑うエリスのほのかに赤い頬に、ちゅっとグラントがキスする。
「バディを組んでる時も、前線指揮と参謀として一緒に戦った時も、グラントはいつも冷静で強くて優しくて…かっこよかった。
ずっとその背中を見て、追いつきたくて……隣にいたかった」
エリスの想いを、グラントはただ静かに、ぎゅっと抱きしめた。
「……エリス」
ふたりはまた、唇を寄せ合い、何度も何度も確かめるようにキスを交わした。
「グラント……大好き」
「ふ…俺も、愛してる」
その夜、今まで伝えきれなかった想いを──
言葉と口づけで、何度も何度も、愛に変えて重ね合った。
夜明けの光が、ふたりの頬を淡く照らしていた。
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