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通知

仁都が帰ったあとも、フロアの空気はしばらく戻らなかった。 「一之瀬さんどういう事ですか?」 「あと改めて思ったんですけど……一之瀬さんって仁都に負けないくらい顔面国宝……」 女子社員たちの視線は未だにこちらへ集まっている。 澪は深く息を吐き、パソコンへ向き直した。 「仕事しろ」 低い声で返すと、女子社員達は「すみませーん」と笑いながら散っていく。 だが、視線だけは未だに残っていた。 気にしないよう資料へ、目を落とす。 キーボードを打つ音だけが、静かなフロアへ戻り始めた頃。 机の端に置いていたスマホが、小さくなる。 澪は眉を寄せた。 画面には、新しく追加されたばかりのLINE。 『いつも女の子に囲まれながら昼食べてんの?』 アイコンには見慣れた茶髪の男。 数秒だけ無言で画面を見つめ、小さく息を吐いた。 返す気はさらさらない。 用のない連絡以外は取らない。 「……めんどくせえな」 そう呟きながら、スマホを裏返して机へ置く。 だが、数秒しないうちに再び通知音。 露骨に眉を寄せる。 『既読ついてる』 『無視?』 『気ぃ悪い』 短文が立て続けに並ぶ。 澪は深く息を吐き、額を押さえる。 ――アイドルのくせして暇か。 そんなことを考えながらも、結局スマホへと手を伸ばしてしまう。 自分でもそれがいちばん面倒だった。 『うるさい。スーツの話以外は聞かん』 送信した直後に、すぐつく既読。 早すぎる反応に、眉の皺が深くなる。 『怒ってんの?』 『当たり前だ』 『じゃあ、お詫びとして飯行こ』 軽い文面。 そのやり取りが自然になっていることに気付き、澪は指を止める。 通知を切り、もう反応しないようにとスマホを伏せる。 たった数分のやり取り。 音の無いスマホが、妙に鬱陶しい。 「……調子が狂うな」 小さく零した声は、タイピングの音へ溶けて消える。 資料へ視線を戻し、再び仕事へ集中しようとした。 だが、一度乱れた思考は簡単に戻ることを知らない。 画面の数字を追っていても、脳裏には軽薄な笑みばかりが浮かぶ。 ――『覚えた』 ――『ありがとう、澪』 無意識に、指先が止まる。 その瞬間。 「一之瀬さん」 背後から声を掛けられ、澪はゆっくりと顔を上げた。 「珍しくぼーっとして、どうしました?」 女子社員が不思議そうにこちらを見ている。 一瞬だけ黙り込み、すぐに視線を画面へ戻した。 「気のせいだ」 カタカタと無機質な音だけが響く。 本来なら、それで落ち着くはずだった。 だが、今日は妙に集中できない。 まるで強く言い聞かせるように、乱暴に資料をめくった。

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