6 / 16
侵入者
仕事を終えて帰宅した頃には、外はすっかり暗くなっていた。
澪はネクタイを緩めながら、小さく息を吐く。
今日はやけに長かった。
正確には、妙に疲れる一日だった。
風呂を終え、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへ戻る。
静かな部屋でようやく落ち着けると思った。
テーブルの上に置いていたスマホが震える。
画面に表示された名前を見て、露骨に眉を寄せた。
――美波仁都。
数秒迷った後、通話を取る。
「……用件は」
『家の前にいる、あけて』
「……は?無理」
即答で返す。
『スーツいらねえの』
その一言に、澪は黙り込む。
『クリーニング出しといた』
「……」
『高かったんだけど、なにしてくれんの』
「しらん。お前が吐いたのが原因だろ」
『開ける気ないなら捨てる』
わざとらしい声音。
澪は深く息を吐き、額を押さえる。
数秒考えた。
「スーツよこしたらすぐ帰れ」
『あーい』
電話越しの声は、なぜか楽しそうに。
澪はそのまま玄関へ向かい、ロックを外した。
扉を開けた瞬間、当然みたいな顔で立っていた。
「ただいま」
「お前の家じゃない」
「ダメかあ」
軽く笑いながら、仁都はスーツの袋を押し付けた。
澪が受け取った、――その隙。
「お邪魔しまーす」
「おい」
止めるより早く、そのまま部屋へ入り込んでいく。
こちらの止める声も聞かないまま、当然のようにソファへと腰掛ける。
「用は終わっただろ。帰れ」
「無理」
「こっちが無理だ」
低く返すも、気にする様子もなくソファに腰掛けながら、呑気に大きくため息を吐いている。
呆れるように澪もまた、ため息を吐く。
すると、伏せた瞼を澪の方へうつした。
「なにその格好、えっろいねえ」
頬杖をつきながら、見上げるように首を傾げている。
「気持ち悪い」
鋭い視線を、仁都の方へ向けると楽しそうに目を細めている。
「ほーんとキレイな顔」
「寝言は帰ってから言え」
「ここで言ってる」
澪は小さく舌打ちし、冷蔵庫へ向かう。
このラフな格好をじろじろと見られている感覚が、妙に落ち着かなかった。
背後からはくすりと笑う声。
「男を食う趣味はないから安心していいよ」
「信用ならん」
仁都は「ひど」と軽く笑いながら、ソファへ深く体を沈める。
「でも、澪なら食えそうだなあ」
そう言いながら、楽しそうに笑う姿が、妙に苛立った。
「なんでお前が食べる側、前提なんだ」
「澪、押しに弱いじゃん」
「お前のせいでな」
仁都は、喉の奥で笑いながらソファの背へ腕を預ける。
そのままじっと澪を見上げた。
「強く押されたら断れなさそうだなあ」
そこにはいつもと違う冷たい視線。
からかわれているような。
澪は仁都の方へと歩み寄ると、仁都の頬を片手で力強く掴んだ。
「大人をなめるな、クソガキ」
低く吐き捨てた声は、見下ろす先にいる仁都に重く響いた。
ともだちにシェアしよう!

