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ルーティン

静かになった部屋に、エアコンの音だけが残る。 ソファへ沈んだままの仁都は、小さく笑っている。 「……いてーよ」 「自業自得」 澪は短く返し、掴んだ手を離した。 背後から感じる、視線。 「なに」 冷たく返す。 頬杖をついて首を傾げながら、楽しそうな顔でこちらを覗き込んでくる。 「今の好きになっちゃいそうだったな〜」 「俺は無理」 「俺が男だから?」 「お前だから」 即答で返す。 一瞬だけ目を丸くした後、喉の奥で小さく笑っている。 「じゃあそれってさ――」 仁都はソファへ座ったまま、ゆるく笑う。 その瞬間、澪の腕がぐいっと引かれた。 不意に体勢が崩れる。 そのまま仁都の上へ倒れ込んだ。 茶色の瞳が楽しそうに細められた。 そのまま耳元へ、ゆっくりと顔を寄せる。 「男の俺にもチャンスあるんだ」 甘く落ちた声と、吐息が耳へかかる。 澪の目が僅かに細くなる。 数秒の沈黙。 澪は仁都の肩を掴むと、そのまま強引にソファへ押し戻す。 「ない」 短く返す。 仁都は小さく舌打ちをし、視線をテレビの方へ向けた。 「つれな」 不満そうに零しながらも、それ以上は追いかけてこなかった。 静かな部屋にテレビの音だけが小さく流れる。 心臓が少しだけうるさい気がした。 その事実が、妙に腹立たしい。 ソファへ深く座り直した仁都は、頬杖をついたままテレビを眺めている。 さっきまであれだけ距離を詰めてきたくせに、急に何事もなかった顔をする。 それがさらに調子を狂わせる。 「いつまでいる」 低く言うと、仁都は視線だけをこちらへ向けた。 「帰ってほしいの」 「用は済んだろ」 「用がなきゃ、いちゃいけねーの」 呆れたような溜息を零すも、仁都はただ楽しそうに笑っているだけ。 「お前がいると俺のルーティンが崩れる」 「じゃあ、そのルーティンに〝仁都と会う〟って入れとけよ」 「無理」 「即答か」 仁都は肩を揺らしながら笑う。 澪は深く息を吐き、そのままソファの背へ体を預けた。 「隣に来ちゃって、誘ってる?」 「そもそも俺の家だろ」 「そんな嫌そうな顔すんなよ」 「実際嫌だろ」 頬杖をついたまま、じっとこちらを見つめる。 視線だけが妙に真っ直ぐで、無駄に心臓へ引っかかった。 「……お前いつもそうやって他人と距離詰めんのか」 低く問うと、仁都は少しだけ目を細める。 「秘密」 軽い返事だった。 「完璧なアイドルがそれだなんてファンたちも可哀想だな」 別にこの言葉に、深い意味などなかった。 それなのに、仁都の眉が僅かに動く。 「世間様が思ってるほど俺は完璧じゃねえよ」 静かな声だった。 「しってる」 そう返すと、仁都は小さく笑った。

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