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忠告
車のテールランプが、ゆっくり遠ざかっていく。
仁都はマンションのエントランス前に立ったまま、小さく息を吐いた。
最後に見た澪の顔が、頭から離れなかった。
あの冷えた目。静かな声。不気味な笑み。
「澪ってもしかして悪い子?」
思わず零した声に、隣の男が眉を寄せる。
「……とりあえずあいつとは関わるな」
不機嫌な声に返事は返さなかった。
普段なら見ただけで相手がどんな人間なのかわかるはずなのに、澪だけはわからない。
「仁都」
男の低い声に、ようやく我に返る。
「バカなこと考えるな」
真剣な顔。
それが逆に、仁都の興味を煽る。
「へえ」
小さく笑う。
「で、どんな関係なの」
その問いには、やはり答えない。
数秒の沈黙の後、男がようやくゆっくりと口を開いた。
「それを知ってどうする?お前には関係ない」
低い声と鋭い視線。
仁都は楽しそうに目を細めると、男の胸元を指先で軽くつついた。
「答えによっちゃ、あんたを恨む」
冗談みたいな口調なのに瞳の奥は笑っていない。
男はその指を払い落とすように掴む。
「……遊び半分で首突っ込むな」
「本気だよ」
仁都はあっさり返し、そのまま視線を逸らす。
その言葉に男は呆れたように深くため息を吐く。
「……俺は忠告したぞ」
低く落とされた声。
だが、気にした様子もなく小さく笑う。
「そんな顔すんなて」
「してるのはお前だ」
即座に返される。
仁都は「怖」と軽く肩を揺らしながら、マンションのエントランスへ背を向けた。
「……元恋人とか?」
ぽつりと落ちた声。
男は眉を寄せたまま答えない。
その反応だけで、仁都には十分だった。
「へえ」
小さく笑う。
胸の奥が騒ついている。面白くない。
その感情が嫉妬なのか、興味なのか、自分でもまだ分からなかった。
「ほんとに澪だけには近付くな」
何度も、何度も。
「……それは元恋人として?俺が近付いたら不満なことでもあんの?嫉妬?」
わざと軽く言う。
男の顔は真剣なまま、目だけが冷える。
「ちがう」
短い返事。
その声音に僅かに眉を動かす。
男は掴んでいた手を離すと、疲れたように息を吐く。
「お前はまだ何も知らないだろうが」
静かな夜。低い声だけが落ちる。
「あいつは自分から落ちることはない」
そこで一度、言葉を切る。
そしてゆっくり仁都の方へ視線を向ける。
「……でも、一度執着するとおわる」
冗談には聞こえなかった。
仁都は数秒だけ黙り込み、そのあと小さく笑う。
「へえ」
また胸の奥が、少しだけ騒ぐ。
「どう見てもそんなタイプには見えないけど」
男は目小さく目を細めて言った。
「……だから厄介なんだろ」
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