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同じ
居酒屋の暖簾をくぐると、少しだけ賑やかな声が流れ込んできた。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
店員の声に、柴田が軽く頷く。
「予約してます。柴田です」
奥のテーブル席へ案内されると、落ち着いた照明が二人を包んだ。
仕事終わりの客が多く、騒がしさもどこか心地よい程度に収まっている。
そのまま席へ向かう途中だった。
カウンター側から、小さなざわめきが起きる。
「え、あの二人やばくない?」
「スーツ似合いすぎ」
「逆ナンしちゃう?」
視線が一気にふたりへ集まる。
柴田は気にした様子もなく歩いているが、澪は一瞬だけわずかに眉を寄せた。
こういう騒がしい人間は好きじゃないからだ。
店員に案内され、奥のテーブル席へ通されると、ようやく視線が途切れた。
「お飲み物、先にお伺いします」
「ビールでいいですか?」
「はい」
注文が終わると、少しだけ空気が落ち着く。
グラスが運ばれてくるまでの間、柴田は軽く姿勢を正した。
それに、つられるように澪も姿勢を正す。
グラスが運ばれて来るまでの間、柴田が資料を軽く机へ広げる。
「早速ですが。今回の件、想定よりスムーズに進みそうですね」
「ええ、問題がなければ」
澪の返事は簡潔だった。
それを聞いた柴田は、少し目を細めた。
「一之瀬さんって、あんまり無駄なこと言わないですよね」
「必要ないので」
「ああ、俺と同じだ」
その一言に、ほんのわずかだけ空気が変わる。
初めて会った時から薄々感じていた。
〝同じ側の人間〟
ビールが運ばれてくると、柴田がゆっくり口を開いた。
「では一応、挨拶として」
その言葉に澪も視線を上げる。
運ばれてきたビールをそれぞれ手に取ると、柴田が小さく笑う。
「話が逸れましたが、今回の件よろしくお願いします」
「こちらこそ」
澪は短く返し、ジョッキを軽く掲げる。
「乾杯」
ガラスの軽い音が、店内に落ちた。
それだけの動作なのに妙に区切りがついたように。
ジョッキを置くと、柴田が少しだけ肩の力を抜いた。
「せっかくですし、仕事の話はやめましょう」
「ですね」
店内の空気が少しだけ柔らかくなる。
柴田はビールを一口飲むと、小さく息を吐いた。
「一之瀬さんって休日なにしてるんです?」
「寝てます」
想像通りの返答に、思わず柴田は笑う。
「俺と同じだ」
「でしょうね」
短いやり取り。
騒がしい店内のはずなのに、不思議とこの席だけは静かだった。
澪はジョッキへ口をつけながら、目の前の男を見る。
無駄に踏み込まない距離感。
その空気が、少しだけ居心地よく感じた。
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