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押し負け

料理が増えるにつれて、テーブルの上も少しずつ賑やかになっていく。 最初は仕事の延長みたいな会話だった。 取引の話。会社の愚痴。 それがお酒と一緒に少しずつ崩れていく。 「一之瀬さん思ったより喋りますね」 「そっちも」 澪は淡々と返すが、普段より確実に口数は増えていた。 アルコールで空気が緩んでいる。 そんな時、テーブルへ置いていたスマホが震える。 一度、二度。止まらない。 澪は露骨に眉を寄せた。 画面には、美波仁都の名前。 「すごいですね、それ」 柴田が頬杖をつきながら面白そうに笑う。 「彼女さんですか」 「いいえ」 「出なくていいんですか」 澪は小さく舌打ちをすると、そのまま通話を取った。 「なに」 『やっと出た』 スピーカー越しに聞こえる声は、どこか拗ねている。 『なにしてんの今』 「飯」 『だれと』 いつもなら即座に切るような会話。 ただ、アルコールのせいか澪は少しだけ返事が雑だった。 「仕事相手」 『へえ』 一瞬、仁都が黙る。 その沈黙に、柴田は頬杖をついたまま視線だけを澪へ向けた。 「随分、懐かれてますね」 小さく笑いながらそう言う。 その声は、電話越しにも聞こえたらしい。 『誰いまの』 仁都の声色が変わる。 澪は深く息を吐き、グラスへ手を伸ばした。 「仕事相手だって言ってんだろ、用がないなら切る」 『なに、酔ってんの』 「酔ってない」 いい感じに酒が回ってきているのは明白だった。 そのやり取りを聞いていた柴田は、頬杖をついたまま楽しそうに目を細めている。 「その子、連れてきてもいいですよ」 軽い口調だった。 だが、その言葉に通話越しの空気が一瞬止まる。 「余計なこと言わなくていいですよ」 「だって面白そうですし」 「俺は反対です」 柴田は笑いながらグラスを傾ける。 一方で、スマホ越しの仁都だけが妙に静かだった。 「帰ったら連絡する、切る」 『いや、これから行く。場所送って』 「……は?来んな」 澪は即座に返す。 だが、仁都は引かない。 『場所送ってくれないなら俺、一人でさまよってその辺の変なおっさんとかに連れていかれても知らないから』 その言葉に、深く息を吐き額を押さえた。 「なんでそうなる」 低く吐き捨てるように返す。 通話越しの仁都は、どこか勝ち誇ったように笑っていた。 『迎えに来てくれようとしてたっしょ』 「行かない」 その横で、柴田は小さく肩を揺らす。 「一之瀬さんダメですよ。酔ってんだから」 「行かないですよ」 澪は深く息を吐き、額を押さえた。 「場所送ってあげたらどうです?」 「はあ」 結局、澪はスマホを操作しそのまま位置情報を送信した。

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